研究課題/領域番号 |
15H03078
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石井 直方 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (20151326)
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研究分担者 |
中里 浩一 日本体育大学, 保健医療学部, 教授 (00307993)
小笠原 理紀 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10634602)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トレーニング / 骨格筋肥大 / タンパク質合成 / リボソーム生合成 / 翻訳効率 / 翻訳容量 / 動物モデル |
研究実績の概要 |
本課題は、運動・トレーニングによる骨格筋肥大のメカニズムにつき、タンパク質合成における翻訳能力の調節、特にリボソーム生合成の活性化に焦点を当てて解明を試みることを目的とする。平成27年度の研究により、以下の成果を得た:1)筋肥大率を段階的にコントロール可能なラット代償性肥大モデルにおいて、筋肥大率はmTORシグナル伝達系の活性化(p70S6Kなどのリン酸化)や筋線維核数の増加に比べ、リボソーム量(rRNA量)とより強い相関を示した(Nakada et al., PLoS ONE, 2016);2)アクチノマイシンDの投与によってリボソーム生合成を阻害すると、筋肥大率とリボソーム量が平行して低減した;3)リボソーム生合成に必要なrRNAの転写活性化に重要な転写因子である UBF(Upstream Binding Factor)のタンパク質量は、筋肥大率およびrRNA量との間に強い相関を示した;4)等尺性収縮を用いたラットトレーニングモデルにおいて、刺激量の増大に依存しタンパク質合成量とリボソーム量がともに増加した;5)同モデルにおいても、刺激量の増大に伴うmTORシグナル伝達系の活性化とタンパク質合成量の増加は必ずしも一致せず、タンパク質合成が一定レベルに飽和した後にもmTORシグナル伝達系の活性が上昇し続ける現象が観察された。 これらの結果から、運動・トレーニングによるタンパク質合成と筋肥大は、リボソームにおける翻訳活性化(翻訳効率)とリボソームそのものの量(翻訳容量)の両者によって調節されているが、タンパク質合成および筋肥大の上限を規定する要因としてはリボソーム量がより重要な役割を果たしていることが示唆される。今後は、mTORシグナル伝達系の活性化、リボソーム合成、タンパク質合成・分解の時系列変化、長期的トレーニングの効果などにつき検討を加える予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度には主に、筋肥大率をコントロール可能な代償性筋肥大モデルを用いて研究を行い、上述のような成果を得た。すなわち、mTORシグナル伝達系による翻訳効率の増大は、筋肥大のために必要な要因ではあるが、筋肥大の程度の調節にはリボソーム量(翻訳容量)が重要であることが明らかとなり、この点は全く新しい知見といえる。一方、このモデルは、常時大きな力学的負荷が筋に作用し続ける、短期間のうちに大きな肥大効果を示す、などの点で、運動・トレーニングによる刺激とは異なる特徴をもつ。また、リボソーム量の増大と、タンパク質合成の活性化との間の因果関係を調べる上で、アクチノマイシンDによるリボソーム生合成の抑制実験のみでは不十分であり、より生理的な条件のもとでの実験を行う必要がある。そのため、本課題では当初より、ラット用ダイナモメータ上で電気刺激による筋収縮を行わせるトレーニングモデルの使用を計画している。このモデルを用いることにより、mTORシグナル伝達系の変化、リボソーム生合成、タンパク質合成のそれぞれの時系列的変化を捉えることが可能と考えられる。その第1段階として、負荷する運動容量(発揮筋力の時間積分×収縮回数)と、運動負荷6時間後の時点での上記3要因の関係を調べ、上記4)および5)に示す結果を得ることで、28年度の研究計画の実施に向けた基盤を作ることができたと評価される。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度以降、以下の研究を行う予定である。 【課題2】リボソーム合成を促すシグナル伝達経路:すでに、rRNAの基本転写因子であるUBFの発現増加が筋肥大率と相関を示すことを見出したので、主に代償性肥大モデルを用いてさらに上流のシグナル伝達経路(mTORシグナル伝達系の一部、c-mycなど)の変化を調べる。 【課題3】リボソーム合成、タンパク質合成、筋線維肥大の因果関係:電気刺激によるトレーニングモデルを用い、これらの因子に加え、上記で特定されたシグナル伝達系活性化の、トレーニング刺激直後から24時間後にわたる時系列的変化を調べる。 上記のうち、【課題3】については、平成27年度に予備的実験を行い、新たな問題点のあることが判明した。基本的なプロトコルでは、摂餌によるタンパク質合成への影響を避けるため、運動負荷の12時間前にピューロマイシンを投与し、その後絶は絶食としてきたが、このプロトコルをそのまま用いると、運動負荷後12時間の時点で絶食時間が24時間となってしまうことである。実際、運動負荷12時間後での運動負荷側肢の筋におけるタンパク質合成が、運動負荷前の対照側肢の筋(運動負荷を与えない)におけるタンパク質合成を下回る現象が観察された。そのため、まず運動負荷を与えないラットを用い、長時間にわたりタンパク質合成の変化を追跡して、摂餌および個体のサーカディアンリズムがタンパク質合成に及ぼす影響を調べ、餌を与えるタイミングなどを最適化することから再検討する予定である。
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