研究課題/領域番号 |
15H03078
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石井 直方 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20151326)
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研究分担者 |
中里 浩一 日本体育大学, 保健医療学部, 教授 (00307993)
小笠原 理紀 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10634602)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トレーニング / 筋肥大 / リボソーム生合成 / 翻訳容量 / 翻訳効率 / タンパク質合成 / UBF |
研究実績の概要 |
本課題は、運動・トレーニングによる骨格筋肥大のメカニズムにつき、タンパク質合成における翻訳能力の調節、特にリボソーム生合成の活性化に焦点を当てて解明を試みることを目的とする。平成28年度の研究では、主にmTORシグナル伝達系の活性化とリボソーム合成の時系列的変化について調べた。基本的な実験方法としては、ラット腓腹筋に50回の等尺性最大収縮を起こさせる筋力トレーニングモデルを用い、3回/週の頻度でトレーニング刺激を負荷した。対照群、1-bout 群、2-bout 群、3-bout 群、6-bout 群、18-bout 群の6群に分け、それぞれ最後のトレーニング刺激より3,6,48時間後に筋をサンプルし、リボソーム量(rRNA量およびリボソームタンパク量)、mTORシグナル伝達系の活性化、UBFのリン酸化などの経時的変化(開始1日後~6週間後)を調べた(6×3群、それぞれN=5)。その結果、以下が明らかとなった:1)トレーニング6週間後における筋湿重量とrRNA量との間に強い正の相関があること;2)同様に、rRNA量とリボソームタンパク質(rpS6)の間にもきわめて強い相関があること;3)トレーニング開始後比較的初期のうちに(~1週間)rRNA量は最大値を示し、以後増大しないこと;4)トレーニング刺激3時間および6時間後のmTORシグナル伝達系活性は、1 bout 後に最大値となり、以後同様の値をとること;5)トレーニング刺激を与えて48時間後にUBFのリン酸化が増大すること;6)トレーニング開始初期(~1週間)において、UBFのリン酸化の程度とrRNA量との間に強い正の相関が見られること。 これらの結果から、リボソーム生合成の活性化はトレーニング初期の段階で起こり、後続(中期~後期)のタンパク質合成の需要増大に備えるプロセスであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度には主に、筋肥大率をコントロール可能な代償性筋肥大モデルを用いたが、平成28年度はより生理的条件に近い、ラット筋力トレーニングモデルを用いて実験を行った。結果として、mTORシグナル伝達系による翻訳効率の増大は、筋肥大のために必要な要因ではあるが、リボソーム量(翻訳容量)も比較的初期の段階で増加することが明らかとなり、この点は全く新しい知見といえる。リボソーム量の増加は、筋肥大のための翻訳容量が頭打ちになって起こる現象ではなく、むしろ継続的な筋肥大に備えるための初期段階での反応とみなすことができる。一方、28年度に達成しきれなかった点としては、UBF以外にrRNAの転写活性化に関与すると考えられる c-myc などの初期転写因子の変化を捉えきれなかったことが上げられる。その原因として、タンパク質量の定量の精度に問題があると考えられたので、29年度にはRT-PCRを用いた定量化を中心に補足的な実験を行う予定である。また、リボソーム量の経時的変化については十分なデータを得られたが、リボソーム量の増加が、実際のタンパク質合成量にどのように関連しているかは全く不明であり、29年度にはこの点の解明を中心に研究を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、最終年度として以下の研究を行う予定である: 1)リボソーム合成、タンパク質合成、筋線維肥大の因果関係:平成28年度と同様のラット筋力トレーニングモデルを用い、rRNA量とタンパク質合成速度(SUnSET法)の経時的変化について調べる。平成28年度に得られた知見と合わせることにより、トレーニング継続中のタンパク質合成、リボソーム生合成、筋サイズの関係を明らかにする;2)運動刺激とポリソーム形成:トレーニング刺激によるタンパク質合成の活性化時のポリソーム形成の程度を、トレーニング初期、中期、後期の段階で比較する。中期、後期においてポリソーム形成が増大すれば、初期における翻訳容量の増大の生理学的意義が強く示唆される;3)リボソーム合成、タンパク質合成、タンパク質分解の関係:トレーニング初期におけるトレーニング刺激負荷直後~48時間後でのタンパク質分解に関する知見を得る。カルパイン(カルパイン自己分解量から推定)、ユビキチン―プロテアソーム系、オートファジー(LC3発現などより推定)などの活性について調べる予定である。 平成27~29年度の研究により、筋力トレーニングによる筋肥大において、リボソーム生合成、翻訳過程の活性化、タンパク質合成、タンパク質分解がそれぞれどのように進行し、どのような役割を果たすかが明らかになるものと考える。
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