ミトコンドリアマトリクスには加齢に伴い異常タンパク質の蓄積が見られることが知られている。このミトコンドリアマトリクスでは3種類のプロテアーゼ(Lon、ClpXP、m-AAA)がタンパク質分解に関与している。ClpXPはプロテアーゼ領域を持つClpPとシャペロン様活性を持ち基質の選択に寄与しているClpXの2つのサブユニットで構成されている。ショウジョウバエ培養細胞を用いてClpPノックダウン細胞株を作成したところ、一部のミトコンドリアmRNA量の上昇に加え、ミトコンドリアRNAのプロセシングの異常やミトコンドリア翻訳の低下が観察された。またドミナントネガティブ型(プロテアーゼ活性欠損型)ClpPの過剰発現細胞やClpXのノックダウン細胞株でも同様の結果が得られた。これらの細胞ではいミトコンドリアRNA結合タンパク質であるDmLRPPRC1の増加が確認された。またDmLRPPRC1の過剰発現細胞株でも同様の表現型が観察され、さらにDmLRPPRC1はClpXPによって特異的に分解されることを明らかにした。これらの結果からClpXPはLonやm-AAAと同様に特定のタンパク分解を介してmtDNAの遺伝子発現を制御していることを明らかにした。さらにヒト培養細胞においてClpPを発現低下させた場合でも、ショウジョウバエ細胞同様にミトコンドリアmRNA上昇、翻訳の低下、ヒトLRPPRCのタンパク質量の増加が確認されることから、ヒトの場合でもLRPPRCがClpXPの特異的基質である可能性を示した。以上のように、ミトコンドリアマトリクスにおけるタンパク質の蓄積がミトコンドリア機能低下を引き起こすメカニズムの一部を明らかにし、老化に伴うミトコンドリアマトリクスのタンパク質の蓄積がミトコンドリア機能低下を引きおこす可能性を示した。
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