研究実績の概要 |
虐待など不適切な養育により引き起こされる「愛着障害」は、免疫機能・内分泌・自律神経系の低下、睡眠障害を伴い、うつ状態さらに様々な社会性障害を生み出す。自閉症などの発達障害と症状が酷似しており、臨床的に鑑別診断が難しい。これらの障害は、報酬系や実行機能系と呼ばれる動機、意欲、環境における適切な行動の選択において中心的な役割を果たしている神経ネットワークの機能に長期的な変化を引き起こす。当該(最終)年度は、反応性愛着障害(RAD)の神経基盤を探るとともに、治療開発のために、RAD患児を対象に、二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験でオキシトシン・プラセボ点鼻の単回投与による脳機能への効果を、金銭報酬課題を用いた認知課題施行時のfMRIを用いて検討した。DSM-5(米国精神医学会による国際統一診断基準)においてRADの診断基準を満たしたRAD群(17名)、定型発達群(20名)の2群を対象に、fMRIを実施し、オキシトシン投与前後報酬の感受性に関わる脳の活性化を比較した。 その結果、RAD群の左半球における腹側線条体でオキシトシン点鼻による神経賦活の改善が認められたが、プレセボ効果はなかった。また、放線冠や脳梁など鉤状束(前頭前野-扁桃体経路)において、RAD群の拡散異方性FA(Fractional Anisotropy)値が定型発達群より有意に低下していた(P< 0.05, TFCE-corrected)(FWE, P< 0.05)。また、RAD群の左半球における海馬(hippocampus)や鉤状束、皮質脊髄路の拡散異方性の程度(FA)ピーク値はリンパ芽球のinterleukin-6 (IL-1b, IL-6)値と負の相関を認めた。 本研究から得られる成果は、RADの病態解明および病態特徴に基づく治療薬開発を目指した臨床応用への発展に貢献すると考えられた。
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