研究課題
本年度は引き続き伊豆半島産海綿Dicodermia kiiensisを対象として詳細な研究を行った。昨年度までにD. kiiensisに由来するフィラメント状バクテリアを密度勾配遠心法によって細胞分画し、得られたバクテリア画分からゲノムを抽出し、シークエンス解析を行った。その結果、ドラフトゲノム情報よりdiscoderminおよびlipodiscamideの生合成遺伝子クラスターを得る事に成功した。Discodermin類は1984年に海綿由来ペプチドとして初めて単離された化合物であり、これまでその生合成的起源がリボソーム依存性か非依存性であるのかが不明であったが、本研究によって非リボソーム依存性ペプチド合成酵素によって生合成されることが明らかになった。また、lipodiscamideは我々のグループが独自にD. kiiensisより見出した新規リポペプチドであり、環状構造内に2つのエステル結合を有し、構成アミノ酸としてシトルリン、ウレイドアラニン、デヒドロノルバリンなど特異なアミノ酸を含む。さらにその生合成遺伝子の解析からクラスター内に硫酸基転移酵素がコードされている事が明らかになり、硫酸化体の存在が示唆された。海綿抽出物の分画方法を最適化し、探索を進めた結果、硫酸化体の単離構造決定に成功している。生合成遺伝子内にコードされている硫酸基転移酵素は大腸菌にて異種発現し、硫酸基転移反応の基質の同定に成功した。また本年度は、T. swinhoeiに由来するtheonellamide類の生合成経路の解明にも着手した。Theonellamide類は分子内のヒスチジンのイミダゾール環によって架橋した特異な構造を有する。そこで、推定生合成中間体を合成し、ヒスチジン架橋の形成機構について検討を進めている。現在簡略化した生合成中間体の合成を完了しており、詳細な反応機構の解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
本研究では海綿共生微生物Entotheonellaの二次代謝産物生産能に関して普遍性と多様性について検討することを目的としている。特にTheonellidae科の海綿動物についてこれまで伊豆半島産のTheonella swinhoeiとDiscodermia calyxの検討を行ってきた。しかしながら、他の海域や他の種の海綿動物においてはEntotheonellaによる物質生産能の解析は皆無であった。そこで本研究ではDiscodermia属海綿D. kiiensisについて初年度より解析を進めている。すでに本海綿由来の生物活性物質はEntotheonellanによって生合成されていることが明らかになっている。また本年度は、Theonella swinhoei由来の生合成遺伝子未知であった代謝産物としてtheonellamideの生合成経路の解明に着手した。特徴的な部分構造であるヒスチジンブリッジの形成機構について興味深いデータが得られている。T. swinhoeiにはいくつかの異なるケモタイプの存在が知られており、代表的な例としてpolytheonamide類を含む黄色タイプとtheonellamide類を含む白タイプがある。黄色タイプではすでに詳細なメタゲノム解析が行われているが、白タイプは遺伝子の抽出が困難であったため、メタゲノム解析が遅れてきた。最近になりシングルセル解析が徐々に可能になり、遺伝子情報も得られつつある。今後は白タイプ由来の生合成遺伝子未同定な代謝産物の解析も進める。すでに我々はtheonellapeptolideの全合成を達成しており、theonellapeptolideの生合成遺伝子の探索を引き続き進める。
昨年度までにインドネシア産海綿Theonella swinhoeiからのメタゲノムライブラリーの構築や生合成遺伝子の探索を進めてきた。国外の海綿動物を研究対象とする場合、試料の収集、保存、良質なゲノムの抽出方法をいかに構築するかが、依然として大きな課題である。種々検討を行うことでtheonellamide類の生合成遺伝子の一部を取得することに成功している。しかしながら、未だ遺伝子クラスターが未同定なTheonella属海綿由来代謝産物も多いため、Theonella属海綿の収集とゲノム抽出方法の改良を引き続き検討していく。一方で、日本国内で採集可能な海綿動物、Discodermia kiiensisに関しては比較的良質なメタゲノムDNAが調整できており、メタゲノムライブラリーの構築やドラフトゲノム解析が可能となった。その結果、D. kiiensis由来の代表的な代謝産物であるdiscodermin類の生合成遺伝子クラスターを同定する事に成功した。引き続きA domainの機能解析など生合成酵素の機能解析を進める。また、同海綿よりわれわれが独自に見出した新規リポペプチドlipodiscamide類に関しても生合成遺伝子の取得に成功していることから、その生合成酵素の異種発現や機能解析を同様に進める。これらの代謝産物はいずれもEntotheonella由来であることが分かっている。生合成遺伝子の異種発現系の検討を行うことで海綿共生微生物由来の代謝産物の異種生産系の構築に展開していく。
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