研究実績の概要 |
生体膜には数千種に及ぶ多様な脂質が存在するが、脂質多様性の意義は解明されていない。近年、脂質が膜タンパク質と相互作用することで膜タンパク質の構造や機能を制御していることが示唆された。しかし、脂質と膜タンパク質の相互作用を評価する手法が欠如していたため、このような「脂質ケミカルバイオロジー」研究も立ち遅れている。 本年度は、表面プラズモン共鳴法(SPR)を用い、膜タンパク質と脂質の相互作用を簡便に評価する方法を開発し報告した(Anal.Chim.Acta 2019,1059,103、プレスリリース)。本手法では、センサー表面を比較的短い炭素鎖の単分子膜で覆い、ここに膜タンパク質を多少埋もれた状態で結合させる。単分子膜との疎水性相互作用によって多量の膜タンパク質をセンサー表面に結合でき、脂質と膜タンパク質の相互作用を高感度で検出可能となった。また、膜タンパク質の疎水表面は単分子膜に完全に埋もれずに水に露出しているため、外部から添加した脂質との相互作用も可能となる。次に本手法を、高度好塩菌が産生する膜タンパク質バクテリオロドプシン(bR)に適用した。その結果、生産菌由来糖脂質S-TGA-1がbRに対してnMオーダーで強く相互作用することが示された。このS-TGA-1はbRの三量化や光駆動プロトンポンプ活性を促進することも明らかとした(投稿準備中)。また本手法をKチャネルKcsAに適用した(投稿準備中)。 さらに脂質と膜タンパク質の相互作用を蛍光顕微鏡で観察するための各種蛍光脂質の開発も行い、以前報告した蛍光スフィンゴミエリンに加えて蛍光セラミドの開発(Langmuir,2019,35,2395、プレスリリース)にも成功した。同時に共結晶作成を目指した結晶化法の開発も順調に研究を進めている。 このように、脂質-膜タンパク質間相互作用解析のプラットフォーム構築に必要な基盤技術は完成した。
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