研究課題
不眠症の病態の背景に想定される過覚醒の病態を生じさせるメカニズムについて、大脳辺縁系および報酬系から覚醒システムへの情報伝達において介在する神経回路や脳内物質およびその作動原理を明らかにし、覚醒のメカニズムに密接に関わると考えられる視床下部のオレキシン産生ニューロンやヒスタミンニューロンがどのような機構で情動により興奮するかを明らかにする目的で実験を行った。今年度はマウスを用いて以下の知見を得た。1. 恐怖条件付け後、恐怖に関連付けた手がかり(音)や文脈に暴露するとオレキシンニューロンにおけるFos発現が顕著に増加したことからオレキシンニューロンは恐怖条件下で興奮することが示された。2.分界条床核GABA作動性ニューロンの光遺伝学的及び化学遺伝学的刺激により、覚醒が惹起されることから、情動の制御に関わる分界条床核の出力が覚醒にも関与することが示された。3. 組み替え狂犬病ウィルスベクターを用いオレキシン及びヒスタミンニューロンへ入力するニューロン群を明らかにし、これらが視策前野のGABA作動性ニューロンから豊富な入力を得ていることを明らかにした。また電気生理学的手法によりこれらのニューロンがノルアドレナリンやセロトニンによって抑制されることを明らかにした。4.視床下部に投射する視策前野のGABA作動性ニューロンには、分界条床核や側坐核から直接入力があることをcTRIO法により明らかにした。これらの結果により、大脳辺縁系、報酬系と覚醒系をつなぐ神経回路が明らかになり、不安や恐怖などの情動がこの回路に影響を与え、不眠症の根底にある過覚醒に関わっている可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
代表者の所属機関が異動になり、実験の遂行に若干の遅れが見込まれたが、ほぼ計画通りに進行している。上記で同定した神経回路が断眠時及び各睡眠・覚醒ステージにおいてどのように動いているかを検討する課題において、Fosの検出では時間分解能が十分でないため、難航している。そこでファイバーフォトメトリー、あるいは脳内内視鏡を用いてカルシウムイメージングを行う方法を試みることにした。現在、予備実験を進めており次年度に完成する予定である。
ファイバーフォトメトリー、あるいはUCLA式脳内内視鏡を用いてカルシウムイメージングを行う方法を立ち上げ、恐怖や不安に暴露した際に、これまで同定した神経回路に関わる神経細胞群がどのように振る舞うかを明らかにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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