研究課題
本研究では、人工的な介入によって身体と環境の関係がどのように変化していくのかに着目し研究を進め、拡張された身体と環境との相互作用の脳内表現を明らかとしていく。本年度は、「自己の身体性」を手掛かりとし、「自己の身体の認識」から「自己と環境の関係の認識」に至るまでの脳内情報表現を明らかとするための心理物理実験を行った。まず、切断肢患者を対象として、義手に対する身体性の評価を試みた。腕を交差させて左右の手指を刺激すると時間順序判断の逆転が生じることが知られており、この時間順序判断課題を切断肢患者に対して行い、データの蓄積を進めた。また、生体信号で制御可能なインテリジェント運動補助装置を用いたときの身体性の評価のために、健常者および切断肢患者を対象としてラバーハンド錯覚課題を用いた実験を行った。評価には、その装置をどれだけ自身の身体と認識しているかを示す身体所有感(sense of ownership: SO)と、どれだけ自分で動かしていると認識しているかを示す運動主体感(sense of agency: SA)を用いた。その結果、SOとSAがその装置に対して拡張したことが示唆され、成果を発表した。動物実験では、ヒトのラバーハンド錯覚課題を参考として開発した行動実験課題を用いて、マウスにおける身体性拡張の神経基盤を調査した。身体部位とダミーを同期して刺激しつづけた後に灌流固定し、即時遺伝子c-fosおよびarcに対する免疫染色を実施したところ、ホームケージにいた統制群に比べて後部頭頂皮質に発現が限局する傾向が見られた。
2: おおむね順調に進展している
健常者や切断肢患者を対象とした心理物理実験を進め、切断肢患者の義手へ身体性の拡張が生じている可能性を示唆する結果等を得ている。また、動物実験についてもデータの蓄積を進めることが出来た。
昨年度までに行っている心理物理実験をさらに進める。具体的には、時間順序判断課題について、切断肢患者を対象とした実験データを蓄積するとともに、インテリジェント運動補助装置を用いたラバーハンド錯覚課題については、これまでのデータをまとめ、拡張された身体と環境の相互作用について検討する。また、動物実験についても継続して実施し、マウスにおける身体性拡張の神経基盤の解明に向ける。
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Clinical Neurophysiology
巻: 126 ページ: 1972-1978
10.1016/j.clinph.2014.12.010