研究課題
研究代表者を中心とする本年度の研究実績は次の通りである。①2016年9月、セミパラチンスク核実験場近郊のブルシャイヤブコニェ、タッサイ、ビガシ、コクジャイクの各村において、住民を対象にアンケート調査・証言収集調査を実施した。103件のアンケート(44点の証言含む)を回収した。現在、2015年度に回収したアンケート及び証言の解析作業を行っている。②これまで実施した証言、インタビューの結果を用い、セミパラチンスク地区における障がい・疾患と核実験体験との関連性を論じた。その結果は、『広島平和科学』にまとめた。③2016年8月にウクライナ・キエフへ出張し、チェルノブイリ原発事故被災者へのオーラルヒストリーを実施した。これまでのオーラルヒストリーと合わせて、次年度にはその成果を発表する予定である。④朝日新聞・読売新聞実施の被爆実態アンケート調査の分析・考察を進めた。その成果の一つとして、両紙のアンケート結果を援用し、これまでほとんど明らかにされてこなかった原爆被爆者の核兵器廃絶への思い、そしてその思いの背景を明らかにした。その成果は、『広島平和科学』にまとめた。⑤福島県飯舘村住民への予備面談調査を実施し、質問項目の整理を行った。研究分担者も本研究における役割分担を十分に果たし、本研究の深化に寄与した。原田は原爆被爆者、セミパラチンスク核実験被災者に多く見られる骨髄性異形成症候群についての研究を深化させた。大瀧は原爆被爆者の健康障害の要因についての研究を行った。星はセミパラチンスクの医学アカデミーにおいて、低線量被ばくにおける動物実験を実施し、その成果を多くの論文にまとめた。また、佐藤は本研究の深化に資する統計モデルを提案した。それぞれの研究成果については、業績欄に記載した。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた調査研究は、①セミパラチンスク地区でのアンケート調査・証言収集、②従来収集してきたアンケート・証言の予備的解析、③チェルノブイリ原発事故被災者へのインタビュー、④朝日新聞・読売新聞実施の被爆実態アンケート調査の分析・考察を進める、⑤福島原発事故被災者・避難者への聞き取り調査、の5点であった。何れも当初の計画通り実施できた。論文・発表も研究成果に示すように順調な成果を挙げることができた。セミパラチンスク核被害研究においては、「障がい・疾患を持つ子ども」に焦点を当て、彼らとその保護者が核実験をどのように認識しているかを検討した。これにより、核実験の被害が後世にわたって影響を及ぼすことを示した点は評価したい。また、多くの原爆被爆者が核兵器廃絶の可能性に関して、否定的、あるいは悲観的でありながらも、何故「核なき世界」を標榜し続けるのか。仮にそれが、原爆被爆者にとって理想的世界像だとしても、それとそれが困難だという認識との間にあるギャップ、あるいはジレンマをどのように捉え、考え、そして消化しているのか、という困難な命題に取り組んだ。これは、今後の被ばく被害の国際比較研究の深化に資するだけではなく、今後の「ヒロシマ」あるいは「唯一の戦争被爆国」を自任する日本の在り方を考える上でも重要な示唆を与えると思われる。研究分担者も業績に示すように、それぞれの役割を十分果たしている。この意味において、本研究は順調に進展していると言える。
本研究は、カザフスタン共和国・セミパラチンスク地区を中心にした「被ばく被害地域の国際比較研究」である。具体的には、放射線被ばく被害による心的影響、社会的・経済的影響の実態及びその背景要因について、国際比較研究を行うものである。そのために、次の点を明らかにする。①低線量被ばくのセミパラチンスク地区住民の被害の一端を明らかにする。②広島・長崎原爆被爆者の現在の心的影響を明らかにする。③チェルノブイリ原発事故被災者の心的・社会的影響を明らかにする。④比較研究により、それぞれの異同を明らかにする。⑤福島原発事故被害の一端を明らかにする。⑥以上からカザフスタン・セミパラチンスクを中心とする「被ばく地域」の被害の特徴を明らかにする。これら目的のために、平成29年度もセミパラチンスク及びキエフでのアンケート・証言収集・インタビュー等を実施する。同時に、従来回収したそれらの解析・考察を行う。また、朝日・読売両紙のアンケート解析も進めていく。平成28年度調査も順調であったが、本年度も前年度同様、調査研究を推進していく。そのため、本研究の分担者、海外の共同研究者とは密に連携をとっている。今後の調査研究に何ら支障はない。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 図書 (2件)
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