研究課題/領域番号 |
15H03143
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
古久保 さくら 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 准教授 (20291990)
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研究分担者 |
丸山 里美 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (20584098)
高松 里江 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (20706915)
須藤 八千代 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 特別研究員 (40336665)
山口 薫 (桑島) 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (50750569)
茶園 敏美 京都大学, アジア研究教育ユニット, 研究員 (60738748)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 社会学 / 近現代史 / 社会福祉学 / 女性学 / 売買春 / 婦人保護施設 / 貧困 / 女性運動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1947~1997年に大阪府内に存在した婦人保護施設「生野学園」の50年間の記録を分析することを通して、貧困概念をジェンダーの視点から再検討することである。そのため、以下の3点に取り組む。ⅰ)女性の貧困の実態が、戦後を通じてどのように変化してきたのかを、量的に把握する。ⅱ)この実態に対し、社会福祉がどのように対応してきたのかを、歴史的に明らかにする。ⅲ)女性の貧困が問題化される過程で、女性運動のなかで巻き起こった議論をとらえ直し、売春防止法にかわる新たな女性福祉政策を構想する。 上記の目的のもと、27年度は以下のような研究・作業をすすめた。研究を開始するにあたり、まず「生野学園」のケース記録、日誌、会議記録などの全資料(ほとんどが手書きのもの)を、電子画像化し、アーカイブ保存と複数名の閲覧が可能な形にした。資料には、個人情報保護の観点から持ち出しの難しいものや、劣化の激しいものも含むため、デジタルカしメラで全資料を撮影する方法をとった。その後、種類ごとに電子画像ファイルを整理して、研究代表者・分担者間で共有できるように作業を進めた。ケース記録は50年間分にわたっているため、欠損データも多く、その部分をうめることができるかどうか、元職員の方から聞き取りをすることにより、記録が残された当時の文脈を理解できるように努めたほか、資料の限界についての確認を行った。 また、このデジタル化と整理のための方法についての検討をおこない、全ケース記録約2000件を、統計処理が可能な形にデータ化するべく、年齢、主訴、入所時期、退所先、職歴、家族関係、健康状態、障害の有無、性産業の経験、暴力被害の経験など、利用者の実態と時代による変化をとらえることのできるコードを定め、整理作業をはじめた。同時に、日本における売春をめぐる議論について歴史的・理論的検証とともに、婦人保護政策に関する先行研究調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初期の計画では、27年度中に以下のことも行う予定であった。1)「生野学園」の資料のうち、ケース記録、日誌、会議記録、通達、施設整備方針など、支援実践の内容がわかる資料を読み込むと同時に、そのなかから特徴的なものを選び出し、テキストマイニングが可能なように、文章をテキスト化する作業を進める。また、元職員や、「生野学園」を運営していた大阪福祉事業財団の職員など、関係者の方に聞き取りを行う。そこから、「生野学園」の利用者たちに対する社会的まなざしを読み取っていく。2)「守る会」の運動資料を読むとともに、運動に関わった関係者を対象に、当時の様子について聞き取りを行う。また、運動のなかで提案された「女性福祉条例」と、その延長線上にある1990年代後半に議論が活発化した「女性福祉法」に関する議論(『Sexual Human rights』等)、その他、売春防止法改正にかかわる議論の資料を集め、検討する。この2点については作業がはかどっていない。 というのも、生野学園関連資料のデジタル化・匿名化・整理に予定よりも時間と手間がかかっているからである。個人情報保全のための方法と手続きなど、研究を進めるための基礎的条件整備をいかに行うかについての議論が必要であった。ただし、上記の作業・議論は、資料を読み込みながらどのように整理するのがいいかを検討することも同時に行っているので、分析方法の検討は進んだ。また、生野学園の入所者の状況についての大枠での理解は進んだ。また、「守る会」の資料を読み込み始めた段階で、むしろこの資料は[女性の貧困」をめぐっての女性運動としての文脈での重要性が薄いことが確認されたので、研究をあとまわしにすることになった。 28年度にどのように分析するのかについての方法についての議論も進み、役割分担も決まっているので、3年間で成果があがるとおもわれ、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度 (1)個々の入退寮者記録を改めて読み直し、コード化を行い、コード化した「生野学園」入所者のケース記録の量的分析を進める。その際、時代による変化がわかるように、1947~1956年の売春防止法制定以前の時期、1957~1975年の利用者減少が起こる時期、1976年~1997年の利用者の多様化が起こる時期の3つに時代を区分し、特徴を把握するようにする。特に着目するのは、家族関係についてと、暴力経験の有無、知的障害の有無、門地、職業経験などである。 (2)上記で示した3期の主担当をきめ、それぞれが膨大な入退寮者記録を読み込む。量的調査の結果から明らかにされる典型的な事例についての事例研究を進めることをつうじて、女性の貧困の実態について時代的な特徴を明らかにする。 (3)当時の生野学園関係者への聞き取りも引き続き進め、文書資料の背景にある福祉関係者の価値観などについても検証を行うと同時に、「生野学園」の実践を広い社会福祉体制の変化のなかで理解できるよう、戦後の社会福祉の法制化の流れや、大阪府内の社会資源の整備状況、他の婦人保護施設や母子寮の歴史的変遷など、「生野学園」の利用者の変化に間接的に影響を与えていると思われる事柄について、調査研究を進める。 (4)ジェンダー平等政策を検討するときの軸になる、フェミニズム理論と女性政策を、国内・海外の研究を含めて、広く検討する。特に売買春をめぐるフェミニズム運動ならびに議論の歴史的展開を検討する。
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