研究課題/領域番号 |
15H03164
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
深貝 保則 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (00165242)
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研究分担者 |
成田 和信 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 教授 (30198387)
森村 進 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (40134431)
高橋 久一郎 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (60197134)
山崎 聡 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (80323905)
小畑 俊太郎 甲南大学, 法学部, 准教授 (80423820)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 幸福 / 存続 / ウェルビーイング / 功利主義 |
研究実績の概要 |
当該の研究課題の具体化のひとつとして、研究組織メンバーに加えて10名程度の中堅・若手研究者の参加を得て、論文集『幸福、ウェル-ビーイングおよび社会倫理』(仮題)の編集を展開中である。2017年度中に3回の検討会を開き、たとえば死生論、詩の意義、友情、社会的不安、福祉のスキーム、食の安全、遺伝子操作、人工知能などと幸福観との関わりをめぐって、多面的なアプローチを試みるものである。 人間の知的な活動の一環としての科学的な営為が社会の変化のなかで持つ意味について、にわかに浮上してきたオープンサイエンスという課題のなかで考察する作業を進めた。1990年代以来このテーマを独自に掘り下げてきた経済史家のポール・A.ディヴィッドが国立情報学研究所のプロジェクトで来日し、議論する機会を持つことができたのは有益であった。 他の研究プロジェクトにより2017年度夏に来日したコリン・タイラー教授(Colin Tyler、ハル大学、UK)をはじめとする研究者と研究打ち合わせの機会を持った。イギリスを中心とする研究者との共同研究を展開するために、2018年度に改めて招聘するための仔細を練ることができた。 社会的制度の維持のための物質的基盤として国家財政の運用は重要なテーマであり、存続とウェル-ビーイングの観点から検討を進める。その一環として、横浜国立大学所蔵の『カール・S・シャウプ・コレクション』の資料群の一部を刊行する計画がにわかに具体化したことから、その編集作業を進め、複数冊刊行した。これは20世紀半ばにコロンビア大学における財政学のセリグマン以来の重厚な系譜を引き継ぐシャウプが所蔵していた資料群で、今回は戦後日本の財政・租税制度についての、シャウプを中心とする使節団が行なった調査に関する部分を扱った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幸福、存続、ウェル‐ビーイングを多面的に検討するに当たって、研究組織メンバーのほか当初予定していたよりもバラエティーに富む若手・中堅の研究者の協力を得ることによって、多面的に検討するプログラムとして豊富化しつつある。これは複数冊の日本語論文集として編纂を進めているものである。 功利主義と幸福観を軸として、とくにブリテン思想の系譜を踏まえて検討する際、その古典的な系譜としてのベンサムやミルに続く思想状況は、ドイツ思想の受けたトマス・ヒル・グリーンおよびその後継者からなるいわゆるイギリス理想主義との関わりのなかで、いわば反射鏡として照らし出すことができる。英文の論文集として企画を進めるうえで、次年度(2018年度)にこの面からの議論を深めるためにコリン・タイラー教授(ハル大学、UK)を招く企画を立て、計画の緻密化を図る見通しを立てた。併せ、ブリテン思想の系譜が日本の近代化のなかで持った意味を探るため、2018年3月に設定されたイギリス哲学会のシンポジウムへの参画という機会を活かしてジョン・ステュアート・ミルへの日本側の応答に焦点を当てる作業を新たに組み込んだ。自由、功利、ジェンダーの観点から、とくに雑誌をも含む日本の多様な活字メディアを扱うことによって、当時の多くの人びとに伝わるべきメッセージ性を考慮するという意味での社会的観点を暫定的ながら取り入れることができた。 ただし、副次的に生じた関連テーマに研究代表者がかなりのエネルギーを注ぐ必要が生じたため(オープンサイエンス関連、および財政資料編纂)、海外出張の予定を次年度に繰り延べするなど、スケジュール上の調整が必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
論文集『幸福、ウェル‐ビーイングおよび社会倫理』(仮題)については、年度内に国内メンバーによる3回の研究会を開催し、年度内に1冊、次年度前半に1冊の刊行を予定する。研究組織メンバーのほか、若手・中堅研究者の斬新なアプローチが期待される。 2018年7月にドイツ、カールスルーエで開催される国際功利主義学会第15回大会に研究代表者が参加し、科学的知識のあり方と知の社会的役割との関係をめぐって報告を行なう。これは機械論的および有機体的な社会のイメージのもとで「知」を考察するもので、ちょうど古典的な功利主義からいわゆるイギリス理想主義の浸透へ、という時期の社会イメージの交錯を、いわば時代性を抽象化して「知」とウェル‐ビーイングの可能性とのあいだで照らし出すものである。 研究代表者の所属機関の制度を利用して、2018年7月-8月にコリン・タイラー教授(Colin Tyler, ハル大学、UK)を招くこととした。タイラー教授とは2000年ごろから随時共同研究を進めており、今回は2014年に横浜で主催した国際功利主義学会大会に掲げた共通テーマ Happiness and Human Well-being Reconsidered からの展開を図るものである。招聘の機会を活用して、この科学研究費によるワークショップを複数回開催する。併せ、Happiness, Well-being and the Images of the Society を主題とした英文論文集の編集作業を進める。
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