研究課題/領域番号 |
15H03166
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
佐藤 直樹 東京藝術大学, 美術学部, 准教授 (60260006)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ディレッタント / ゲーテ / 宮廷 / ヴァイマル / 女性の役割 / 素描 / サロン / 美術教育 |
研究実績の概要 |
ゲーテとシラーの共著『ディレッタンティスムについて』が構想されたドイツのヴァイマルを中心に、研究メンバー全員参加の共同調査旅行を行った。共同調査旅行では、まず、フリードリヒ大王の宮廷での音楽活動および美術収集をポツダムのサン・スーシ宮殿で検討し、メンデルスゾーンの素描をベルリン国立図書館において作品調査した。また、C. D. フリードリヒの友人で医学者C. G. カールスの作品に関しては、ドレスデン版画素描館および絵画館で作品を目の前に同館の学芸員とディスカッションを行った。本研究の共同作品調査の意義は、ディレッタント作品のイメージおよび学問分野を越えた課題の共有に加え、何よりも美術における文芸および音楽活動の影響、あるいは音楽における美術作品の痕跡などを相互協力により学際的な観点から探求することにあり、この共同調査でいくつもの重要な問題意識を共有することが可能となった。調査旅行の主目的地であるヴァイマル古典財団では、同財団の研究部門長トルステン・ファルク氏からヴァイマル宮廷のディレッタント活動に関するレクチャーを受け、活発な意見交換をすることができた。 29年度のシンポジウムでは、ファルク氏に基調講演を依頼している。宮廷のサロン文化における遊戯としての芸術を論じてもらう予定だ。また、ディレッタントの芸術活動において女性が大きな役割を果たしていることから、この時代の女性研究を重ねてきたドレスデン版画素描館のコルドゥラ・ビショッフ氏にも発表を依頼した。女性たちは、宮廷での芸術活動を手本としながら、刺繍や家具装飾を通して市民層に良い趣味を育む役割を担っていたことから、彼女の発表を通して近代的生活の萌芽に果たした女性の役割にも光を当てる予定である。宮廷と市民の境界領域に位置づくディレッタントの芸術活動から、これまでの美術研究が問い直されることになるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度の国際シンポジウムの開催に向けて、共同調査旅行を実施した。連携研究者全員でベルリン、ドレスデン、ヴァイマルを周り、当地に所蔵される作品を全員で調査し、問題となる作品の確認および課題を共有することができた。本研究の意義は、ディレッタント作品のイメージと課題の共有に加え、何よりも美術における文芸および音楽活動の影響、あるいは音楽における美術作品の痕跡などを相互協力により学際的な観点から探求することにあるのだが、この共同調査でいくつもの重要な問題意識を体験することができたことは収穫であった。この共通体験に基づき、シンポジウムでの発表を見据えた研究課題を各自が見つけることができた。また、こうした問題意識の共有が、シンポジウムが単なる連続講演となることを回避し、それぞれの発表課題が有機的に結びついた学術的に実り多い全体討論へと導いてくれるはずだ。今回の調査で明らかとなったのは、なによりヴァイマル宮廷におけるディレッタント活動の多彩さであろう。公妃アンナ=アマリアを中心としたサロン活動は、ゲーテを迎えることで頂点に達する。ゲーテはサロンにおける文化活動をリードすると同時に、宮廷文化を市民層に伝播する役割も担っていた。芸術活動が、勃興する市民層に広がっていったのは、宮廷と市民の境界領域で活動したディレッタント(=ゲーテ)なしには不可能だったのである。同時に、アンナ=アマリアのサロンのメンバーであった多数の女性たちの活躍も忘れてはならない。女性たちは、宮廷での芸術活動を手本としながら、刺繍や家具装飾を通して市民層に良い趣味を育む役割を担っていたのである。シンポジウムでは、近代的生活の萌芽に果たした女性の役割にも光を当てることが不可欠である。ヴァイマルの文化水準を向上させていったのはディレッタントであり、20世紀のバウハウス設立を促す原動力となっていくことが明らかにされよう。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である29年度は国際シンポジウムを10月27・28日にわたって開催する。初日には、基調講演をトルステン・ファルク氏に宮廷のサロン文化における「遊戯としての芸術」を論じてもらう。もうひとつの貴重講演として、ミュンヘンの中央美術史研究所の所長ウルリヒ・フィステラー氏に「素描教則本の歴史とディレッタントにおける意義」を講演してもらうこととなった。18世紀以降、ブルジョワ層にも広がっていく素描教育がディレッタンティズムの発展に果たした役割とその意義を論じてもらいたい。二日目は、研究メンバー7名がこれまでの研究成果を発表する。加えてドレスデン版画素描館のコルドゥラ・ビショッフ氏に「1800年頃の侯爵夫人と女性市民階級に関する芸術の交流と、ドイツ近代芸術において女性の果たした役割」を論じてもらう予定である。 シンポジウム終了後は、報告書の出版を目指す。出版にあたっては、助成金を得て可能ならば二カ国語の国際版としたい。編集にあたっては、校正に通常の倍以上の時間と費用がかかることとなるが、三年にわたる成果を日本だけでなく国際的に問うことを目指している。これまでの海外研究者との学術的交流からも、本研究課題は高い関心と評価を得て来たため、国際版を出版する意義は極めて高いと確信している。したがって、今後の研究は、シンポジウムと報告書の出版にむけて、各人が最終的な結果を出すよう集中的な研究および執筆に励むこととなる。
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