研究課題/領域番号 |
15H03171
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
小林 公治 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化財情報資料部, 室長 (70195775)
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研究分担者 |
吉田 邦夫 東京大学, 総合研究博物館, 特招研究員 (10272527)
能城 修一 明治大学, 研究・知財戦略機構, 客員教授 (30343792)
末兼 俊彦 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館, 学芸部工芸室, 主任研究員 (20594047)
鳥越 俊行 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 室長 (80416560)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アジア / 螺鈿史 / 南蛮漆器 / レイピア / 大航海時代 / 文化交流史 / 学際的研究 / ヨーロッパ |
研究実績の概要 |
本助成4年目となる本年度は、2018年8月にシンガポール国立アジア文明博物館にて近年同館所蔵となった南蛮漆器類似螺鈿漆器の、また同国立遺産保護修復センター(HCC)などにおいて調査・研究協議を行った。また併せてインドネシアジャカルタ歴史博物館、フィリッピン国立人類学博物館およびイントラムロス地区などで調査を実施した。これにより、長年探索していた作品の調査が実現できたことに加え、新たな南蛮漆器類似アジア製聖龕の確認、またオランダ総督ヤン・クーン肖像画およびスペイン沈没船出土品に下記十字形洋剣柄部と酷似する17世紀初頭レイピアの存在を確認するといった想定外の成果も得た。 また同月には奈良国立博物館にて甲賀市藤栄神社所蔵十字形洋剣(レイピア)柄部分のCTスキャニング調査と研究協議を、また2019年2月にはSpring-8にて放射光による同剣身部の構造調査を行った。さらに同月、岐阜市歴史博物館にて同館所蔵南蛮漆器類の追加調査を行ったが、その際に漆塗膜下に多数の墨書文字が確認されたため、今後光学手法などによる追加調査を計画している。 このほか、9月には長崎歴史文化博物館にて同館所蔵南蛮漆器の調査、11月にはイギリスにてオークション出品南蛮漆器、V&Aミュージアム所蔵で日本国内にも伝世する16世紀後半代ヴェネチア製螺鈿器、ウィンザー城にて王室所蔵南蛮漆器の調査や研究協議を実施した。 以上に加え、11月には中国上海博物館にて開催された中国古代漆器国際学術研討会にてこれまでの調査成果の発表と中国各地での調査を実施、また2019年3月にも、中国国家博物館や山西博物院などで今後のアジア螺鈿史総合研究を念頭に置いた周代から唐代にかけての螺鈿器調査と研究協議を行った。 以上のように、今年度は継続的な基礎的作品調査に加え、研究成果の公表や更なる発展的研究に向けた事前調査・研究協議などを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アジアの螺鈿史を具体的に復元し、その歴史的な意味を考えるうえでまず重要となるのは、各国各地域に所在する様々な螺鈿器について、その制作地や年代をできるだけ詳しく正確に位置付けることである。しかしながら、工芸品とりわけ螺鈿器類については基準資料や年代が明らかな作例がほとんど存在しないことに加え、研究の少なさもあって、既存の編年論は理解に粗い点が多く、年代的位置付けはもちろん、その製作地についてすら異なる見解が並立するといった状況にある。 こうした研究史的状況の中で、今年度は当面の課題となっている南蛮漆器洋櫃編年構築のための各地の継続的作例調査を実施したのに加え、南蛮漆器と密接に関連するアジア製の南蛮漆器類似作例の調査、また南蛮漆器と同時代にヨーロッパから日本にもたらされ後、精巧な複製が制作された藤栄神社所蔵レイピアに関するCTスキャニング再調査、Spring-8による放射光分析調査、また新たに得られたオランダ絵画やスペイン沈没船出土品の情報など、大航海時代に起きた物質文化交流に関するさまざまなデータを得ることが出来た。 また本助成研究の4年目となる本年度は、これまで行なってきた各地での調査成果の一部についてまとめ、海外で開催された国際会議において口頭発表を行うとともに、当日配布された資料集に中国語での要旨と日本語での論文を掲載し、単なる研究成果の発表という意味だけではなく、発表国と深く関係する研究史上の問題点についてその国の研究者らへ提起する機会ともすることができた。このほか、今後より一層研究を進めていくための準備作業として、海外での調査や現地研究者との協議なども行うことができた。 このように、本年度の研究では各地での作品調査のみならず、成果の公開と問題提起、また今後の研究を見据えた調査や協議なども実施できたことから、おおむね順調に進展している、と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本助成研究最終年度の5年目となる来年度は、現在の中心的検討対象となっている南蛮漆器洋櫃について、国内外での実見調査を重ねていく。また、南蛮漆器の2大分類の一つであるキリスト教用具の聖龕と同形の無文漆器の両者を総合的に検討することによって、南蛮漆器の成立過程についての具体的論証を試みるとともに、もう一つの分類である生活用具との関係や、制作技術などの検討で、南蛮漆器の多源的性格についての更なる検討を進めたい。 またこれまでの研究で17世紀前半に国内で制作された西洋式剣であることが明らかとなった藤栄神社所蔵十字形洋剣(レイピア)については、おおむね当面必要と思われる調査を完了できたため、共同研究者らとの共著となる報告書刊行に向けた原稿執筆およびそれらの取りまとめ作業を行いたい。 さらに、代表者が所属する組織の事業としても開催した南蛮漆器類に関する国際研究会の各発表および討議内容についても報告書を刊行する予定であり、発表者らと発言内容の確認修正作業を進め、英文翻訳による原稿取りまとめなどを行ない早期の発刊を目指していきたい。 このほか、中国を中心とした原始・古代の螺鈿史研究など、本助成研究の更なる発展的研究に向けた国内外各地での事前準備調査や研究協議などについても実施していく予定としている。 このように、来年度は本助成研究の最終年度としての作品調査と、これまでのさまざまな調査研究結果の取りまとめや成果の公表、そして更なる発展的研究に向けた準備作業を柱として実施し、次年度以降の新規研究開始に繋げていきたい。
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