廣海家は江戸時代後期に米穀や肥料の問屋として身を起こし、幕末に廻船問屋として活躍した後、仲買、株式投資、銀行経営などに転じてその資本により地域の近代産業の発展に寄与した商家である。本事業の目的は、当家の4棟の土蔵が伝えた文化財を調査し、京都国立博物館の収蔵品として受贈することにより、幕末から戦前期の関西の商家の暮らしを後世に伝えることである。当館は平成24年から調査をはじめ、27年度より科学研究費の助成を受けて格段に作業効率を高め、28年度までに書画・工芸・考古・歴史資料の収蔵品884件と教育事業や茶会等のイベントで用いる備品279件を受贈してきた。最終年度である29年度は金工51件、陶磁97件、漆工・木竹工7件、染織6件の計161件の収蔵品と、1件の備品を受贈した。また図録用撮影を進め、117件を「貝塚廣海家コレクション受贈記念特別企画 豪商の蔵―美しい暮らしの遺産―」と題した展覧会として一般公開し、図録に収めた。併せてコレクションの概要を「廣海家の蔵が伝えたもの」に、調査報告を「土蔵から展示室へ」としてまとめ、受贈の収蔵品全1045件の一覧とともに図録に掲載した。さらに一般観覧者向け講座「土蔵は大きなタイムカプセル!―旧廻船問屋、貝塚廣海家からの大型寄贈を記念して―」、「商家に伝わったやきもの」、「御所人形の展開」や、受贈の備品を用いた呈茶会も開いた。当館の収集対象ではない文化財についても他館への寄贈をとりまとめることができた。多くの文化財が、それを用いた環境から切り離されて博物館施設に収蔵されるなか、本件は、廣海家の暮らしの記憶を纏ったまま、ひとまとまりで収蔵された点に意義がある。また、調査に参加した学生たちに調査の手法や姿勢を伝授することもでき、図録に調査報告を掲載したことで、今後、類似の案件に遭遇する文化財関係者に、ひとつのモデルケースを提示できたと考える。
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