研究課題/領域番号 |
15H03185
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
黒田 彰 佛教大学, 文学部, 教授 (80178136)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 幼学書 / 孝子伝(図) / 列女伝(図) / 武梁祠画象石 / 呉氏蔵北魏石床 / テキ門生石床 / 八幡縁起 / 三国伝記 |
研究実績の概要 |
8月に、幼学の会として始めて、中国四川省における孝子伝図、列女伝図、列士伝図を中心とする漢代画象石の実地調査を実施、四川省の画像石研究の第一人者である唐長寿氏の案内により、非公開の遺跡を含めて多数の図像の収集を行うことができた。同時に、シンセンの呉強華氏の依頼により、シンセン博物館主催の国際シンポジウム「孝治天下」において、「董黯図攷」と題する招待講演を行った(8月26日)。 3月には、故宮博物院主催の国際シンポジウム「内涵曁外延―故宮黄易尺牘研究国際学術検討会」のいて、浙江大学の白謙慎教授による講演と共に、「武梁祠画像是偽造的□(口+馬)」と題する基調講演を行い、先年のM・ニラン女史による武梁祠偽刻説への強力な反論を、中国において始めて披瀝することができた(3月28日) 本年度の主な論文実績としては、呉強華コレクションを黒田が2012年に初めて知った際の依頼原稿の中国語版が『永遠的北朝』(文物出版社、8月)に収載された。因みに該書は、董黯図を含む北魏石床を始め、2012年時点における呉強華コレクションの詳細なカラー図版カタログであり、北魏画象石研究上の学術的価値は極めて高い。『京都語文』24号には、その日本語による原文を収録した。「蔡順、丁蘭、韓伯瑜図攷」(関西大学『国文学』101)、「呉強華氏東魏武定元年テキ門生石床について」(『文学部論集』101)も、呉強華コレクションの孝子伝図をめぐる考察である。 幼学の研究としては、筒井大祐と共編で、宇佐神宮蔵の八幡縁起上下を公刊した(『京都語文』23,24)また、『幼学の研究』として、架蔵の平仮名本三国伝記の全巻影印を、成果報告書として公刊したが、それらはいずれも継続課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書に期した、1.孝子伝図、列女伝図の研究 2.孝子伝の研究 3.海外の幼学研究との連携 4.古代幼学書の開拓、の四つの課題における本年度の進捗状況を簡潔に述べる。 1については、幼学の会として全力で取り組んでいる武梁祠画象石43図の注解が、原稿の二読目を終えようとしている。一読目は先行研究を中心とする基礎稿作成であったが、二読目は最新の成果を反映させる事を目的としたため、その取り入れ方が極めて難しい。例えば概要欄に記した魯秋胡子図に関する考察がその一端を示すものである。他に多数の類例図の出現している十帝図の禹図や、鶴間和幸氏が真剣を盛り込まれた(『秦帝国の形成』2編4章)荊訶図など、従来の研究を一新すべき解釈を目指している。また、呉強華コレクションをめぐる研究については、呉氏の好意により、孝子伝図を含む図像資料の研究が極めて順調に推移しており、その図像資料の大半を既に紹介、報告しているが、呉氏が継続的に収集されている北魏孝子伝図についての調査、検討を行いたい。呉氏との連携が、本テーマの行方を大きく左右するであろう。 3についえは、呉氏とのそれが大きな成果を収めつつあることは、前述の通りであるが、3月の国際シンポジウムでは、白謙慎氏との連携が、懸案のM・ニラン偽刻説をめぐって大きな節目を迎えた。近く黒田の「武氏祠画象石の基礎的研究」の第二論文が、中国において雑誌掲載され、白氏との共編になる単行本も来年度刊行される。 4古代幼学書の開拓は、八幡縁起の研究を筒井大祐と共に進めており、石清水八幡宮の貴重な資料を公刊したことは前述のとおりである。また、架蔵の平仮名本三国伝記が公刊できたことは、該書が唯一の完本であることに鑑み、今後の説話研究にとっても大きな意義を持つものと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の四川省、漢代画象石調査は、専門家である唐長寿氏の教示により、さらに多数の図像資料が現存していることが判明した。四川省が中国南方における、独自の文化的位置をしめることはかねてから承知していたが、その拡がりは思いの他深く、なお今後の継続調査の必要なことが実感された。可能であれば、29年度も引き続き四川省の画象石調査を継続実施したい。なお未知の董永図、原谷図、荊訶図などが現存している。同様に山東省臨沂市博物館蔵後漢画象石中にも、新出董永図が含まれており、通常撮影では全く再現できないその董永図をどのように紹介するかが、次年度以降の課題である。 本年度、孝子伝図を紹介した呉強華氏蔵の東魏武定元年テキ門生石床についても、その墓主をめぐって大きな問題に遭遇した。墓主のテキ門生がソグド人である可能性について、目覚ましく進展している日中のソグド学の成果を受けて、その素性を明らかにすることが、目下の急務である。次年度以降の研究テーマとして、「呉氏蔵東魏武定元年のテキ門生石床について」の続稿を予定している。同時にテキ門生墓主の衣服、酒器など、ソグド人との関係において研究を進めたい。 平仮名本三国伝記は、当初影印して成果報告書とする予定であった。しかし、研究者の便宜を考慮すると、その翻刻も必要であろうと判断した。全十五巻と分量が多いことを始め、様々の困難があり、刊行が遅延したが、次年度早々には公刊の目途がたった。本年度の影印篇と併せ、翻刻編を刊行する予定である。
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