研究課題/領域番号 |
15H03187
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大石 和欣 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50348380)
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研究分担者 |
田中 裕介 青山学院大学, 文学部, 准教授 (00635740)
山口 惠里子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (20292493)
アルヴィ なほ子 (宮本なほ子) 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20313174)
ディヴィッド ヴァリンズ 広島大学, 文学研究科, 教授 (70403623)
川端 康雄 日本女子大学, 文学部, 教授 (80214683)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ロマン主義 / オリエンタリズム / 文化交渉 / 文学受容 / イギリス文学 / ヴィクトリア朝 / ヴィクトリア朝絵画 |
研究実績の概要 |
本年度は計画通り国際学会“Romantic Regenerations”を7月に主催し、イギリス・ロマン主義の位相を、イギリスやヨーロッパのみならずアジアを含めた地域において文化交渉と受容の観点から探った。本科研研究成果の一部もここで公開し、新しい知見のなかで検証した。大石は国際学会を主催すると同時に、ラフカディオ・ハーンを中心に、日本におけるロマン主義受容とその美学を複数の学会発表および論文で公表し、コウルリッジについての論文集をまとめた。山口は、ラファエッロ以前の芸術に回帰しようとした19世紀ヨーロッパ芸術の動向を、イギリスのプリミティヴィズムとロマンティシズムの関連から検証した論文を共著出版し、また現代芸術家リチャード・ロングの「足跡の芸術」が示唆する不完全性の美学、オスカー・ワイルドとコナン・ドイルが描くインテリアが示唆する刻印から印象へと向かう美学的移行について学会発表した。アルヴィはイギリス・ロマン主義のテクストの再構築の様態を、イギリスに移住したフューズリ、ヴィクトリア朝の非知識人、イギリスと異文化圏を往還する20世紀のアジアの文学者が再構築するワーズワス、キーツを例に考察し、成果の一端を日本英文学会で発表した。田中は、ヴィクトリア時代のマシュー・アーノルド、ウォルター・ペイター、オスカー・ワイルドの批評テクストについて、それらが前提としている歴史的含意を、聖書を含む古典と東方に関する同時代の学知との関わりにおいて検討した。川端はウィリアム・モリスの日本での受容に関して、1960年代から80年代初めにモリスの活動を総合的に捉えた研究者小野二郎の業績について調査し、2019年に世田谷美術館にて開催される小野二郎展の学術研究員として企画・実施に関わった。ヴァリンズは19世紀から20世紀前半におけるロマン主義受容についての単著を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画ではモダニズムにおけるロマン主義文学の受容と位相に焦点を当てることになっていたが、年度末に開催予定だった国際学会を、会場や連携する大学、関連する研究者の都合も考慮して7月に前倒したために、前半はその準備に大幅な時間を費やすことになり、モダニズム研究は次年度にもちこすことになった。しかし、国際学会の準備やその成果検証を通して、ロマン主義の文化交渉を通した受容や位相について、新しい知見が得られたのは大きな収穫である。とりわけ19世紀から20世紀初頭にかけての北米における受容、また20世紀のアジアにおける受容についての研究発表に、斬新な知見が見られた。またアルヴィがアラン・ビューウェルと行った基調講演は、『鉄腕アトム』のような漫画においてもロマン主義の視覚的かつ思想的な影響が及んでいることを示した点で、ロマン主義受容の射程を時代や領域ともに大きく押し広げたことは多大は業績であった。 その後は複数の研究分担者が学会などを利用して打ち合わせを行ったり、あるいは同じ場で研究発表を行うなどして、互いの研究成果についての情報・意見交換を行った。それ以外は、個別の調査と研究成果発表に専念し、おもに19世紀イギリスにおけるロマン主義の位相、とりわけ美学的な観点からの検証に大きな研究の進展が見られた。こうした成果のうち出版したものについては相互回覧することで研究情報をアップデートするように努めた。また川端が行ったウィリアム・モリス受容の一端としての小野二郎展は、社会的インパクトという点で大きな業績である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本科研研究の最終年度にあたり、これまでの成果を最終的に検証し、とりまとめる必要がある。 具体的には2018年に主催した国際学会での成果をもとにして、成果論文集を企画・編集し、海外の出版社からの出版を交渉する。国際学会の際に明らかになった様々な問題点を検証・修正し、必要だと思われる領域については海外の研究者に新たに打診をして寄稿を依頼しながら、本研究の総決算にふさわしい論文集をまとめていく。 また、19世紀におけるロマン主義受容については多くの新しい知見が得られたが、問題点も出たことも確かであり、それらを整理していく。平成30年度の計画で未達のままであったモダニズムとの関係については、最終年度にヴァリンズを中心にして再考する必要がある。論文集とは別に個別に研究調査と関連するテーマでの研究発表・論文公表は継続していく。 グローバリゼーションとその反発という現代の政治力学的な状況を踏まえて、ロマン主義の受容研究を通して、流通、消費、人間の移動を伴ったグローバル化、その結果としての多様な文化と人種の混淆、言語の混合と変容、アイデンティティの多重化といったテーマを照射する研究を取りまとめることができれば本来の研究計画は概ね遂行されたと考えられる。
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