最終年度である2018年度は、当初の予定とは少し異なるものの、1920年代・30年代のシュルレアリスムから60・70年代の現代詩に関する研究会、作家パスカル・キニャールに関するシンポジウムとインタビュー、作家ジェラール・マセの著作の翻訳とマセの周縁性に関する研究、南仏で活動したセザンヌやゾラを専門とするパリ第三大学名誉教授アラン・パジェス氏の講演などにより、南仏・地中海というトポスについて、あるいは、広くパリのような「中心」から外れた「周縁」での芸術制作の意義について、研究を進めることができた。 2018年10月には当初の予定どおり、スタンダール・グルノーブル第三大学のリダ・ブーラービ氏にドラクロワの絵画読解を出発点に、地中海文化研究に対する新たな視点を提示するような講演を行ってもらった。「地中海」表象がつねにフランスないしヨーロッパの視点から行われているだけでなく、それに対する批判すらもまた、ヨーロッパ中心的な視点によってしか行われてきていないことが鋭く指摘された。また、研究協力者であるパトリック・ドゥヴォスによるフランス語圏アフリカ(モロッコ、セネガル)への出張により、ズベール・ベン・ブシタら日本では知られていない作家へのインタビューや、地中海マグレブの現代美術の展示などの調査が行われた。こうした種々の調査や講演会の成果を包括的にまとめるべく、リダ・ブラビ氏との研究会を年度末に企画していたが、同氏が所属機関の業務都合により年度中に参加できなくなったため、一部予算を繰り越し、2019年9月末から10月初めにかけて研究代表者がパリに赴き、リダ・ブーラービ氏や、パリ第4大学教授クリスチャン・ドゥメ氏、セルジー・ポントワーズ大学クロード・コスト氏らとともにこれまでの研究成果の確認と、今後の研究の展望について議論を行った。
|