研究課題/領域番号 |
15H03192
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
沼野 恭子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (60536142)
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研究分担者 |
前田 和泉 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (70556216)
鈴木 義一 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (40262125)
巽 由樹子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (90643255)
福嶋 千穂 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (50735850)
塩川 伸明 東京大学, 名誉教授, 名誉教授 (70126077)
越野 剛 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 准教授 (90513242)
大森 雅子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (90749152)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ロシア東欧文学 / 比較文学 / 東スラヴ語圏文化 / 東スラヴ語圏歴史 |
研究実績の概要 |
2016年度は、東スラヴ語文化圏(ロシア・ウクライナ・ベラルーシ)の文学・文化とその複雑な歴史やアイデンティティを超域横断的に講究するという目標のもと、それぞれの研究者が各自の関心と研究を深めるとともに、本科研の最大の研究対象である作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチを11月に招聘して記念講演をしていただき、対話やインタビューを行った。アレクシエーヴィチは、父がベラルーシ人、母がウクライナ人、執筆言語がロシア語で現在ベラルーシのミンスク在住であるため、本科研を象徴する存在である。ノーベル文学賞受賞後、多忙を極め来日が危ぶまれていたが、研究代表者の沼野恭子がベラルーシを訪れて日程を調整し、科研メンバーその他多くの方々の協力を得て招聘実施にこぎつけた。 彼女の講演や対話の模様は、多くのマスメディアに取り上げられ話題を呼んだ。本科研の越野剛は日本ロシア文学会全国大会のシンポジウムで「アレクシエーヴィチ―ソ連のない世界でソ連を思い出す」、研究会で「アレクシエーヴィチの作品における美学的詩学」の発表を行い、前田和泉は『現代詩手帖』にアレクシエーヴィチ訪日覚書を綴った。沼野恭子は、彼女のノーベル賞受賞スピーチを訳出し、最新書『セカンドハンドの時代』の書評を書き、「チェルノブイリの30年」と題するシンポジウムで彼女の作品を紹介した。このように、予定していたとおりアレクシエーヴィチ作品についてさまざまな成果を上げることができた。 また、大森雅子は、モスクワ大学における国際学会で、ウクライナ出身のブルガーコフの代表作『巨匠とマルガリータ』について発表するとともに、彼の戯曲を日本語に翻訳し解題を付して刊行した。塩川伸明は、ロシア史を現代的な視点から読み解く著書、論文を発表した。ロシアやウクライナで研鑽を積んだ研究協力者たちもそれぞれ論文や学会発表をおこない、本科研に貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記したとおり、本研究の最大の目標と定めていたアレクシエーヴィチ招聘が計画どおり2年目に実施できたことの意義は大きい。彼女の来日に前後して本科研メンバーはさまざまな場や媒体で彼女の紹介・作品研究に努めた。アレクシエーヴィチ研究は次年度(2017年度)も続けられる予定だが、その確かな基礎となるものをすでに築くことができたと言えよう。 アレクシエーヴィチ研究を通じて、ソ連時代を生きた市井の人々の体験やメンタリティが浮かび上がり、またソ連時代にはそれぞれ共和国だったロシア・ウクライナ・ベラルーシの共通点や相違点も明らかになってきた。これを中心に据えるようにして、ソ連時代、ポストソ連時代を見通した歴史概観、社会意識調査、20世紀初頭ロシアの女性詩人ツヴェターエワのセクシュアリティ、ロシアとウクライナに関わるブルガーコフの作品における風刺雑誌の意味、ロシア革命後100年間のロシア文学史概観、古代スラヴとバルトの関係性、中世ロシアの聖者伝を模した現代ロシア作家ヴォドラスキンの小説、ベラルーシのエリア・スタディーズ、現代ロシアの作家ペトルシェフスカヤの幻想性、ゴーゴリの初期ウクライナ幻想作品と日本の怪奇譚の比較、現代作家ペレ―ヴィンとソ連の地下カルチャーのつながり等、多彩な研究が行われた。これらは一見ばらばらなようにも見えるが、ソ蓮時代とポストソ連時代の結びつき、あるいは断絶性を考える上で、互いに連関性があり、大変刺激的であった。アレクシエーヴィチという「核」に向かう求心的な研究と、そこから発展していく遠心的な研究がバランスよく織りなされたと言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
折しも2017年はロシア革命勃発からちょうど100年目にあたるため、日本でも革命を振り返る試みがすでにいろいろな形で行われている。本科研も、今年を節目の年と見なし、革命に続くソ連時代・ポストソ連時代をあらためて捉え直す予定である。具体的には、最終年度である2017年度に、本科研の総括的なシンポジウムを行うこととする。それは、これまで各自が推進してきた研究をより一層、有機的・立体的に結びつけることでもある。もちろん、ロシア革命以前の歴史・社会にも目を向けなければ、ロシア・ウクライナ・ベラルーシ間の複雑な関係性や問題を理解することはできない。そのため、これら東スラヴ語圏と歴史的に深い関係を持っているポーランドやリトアニアとの歴史的関係も視野に入れながら、現代的な視座で東スラヴ語圏の文学・文化・社会・歴史を探求していく。もちろんアレクシエーヴィチの作品の中で証言しているこの地域の人々の生活にも注意が払われることになるだろう。 また、ウクライナのリヴィウに連携協力者を派遣して当該社会の歴史・文学の調査、ロシアとの関係性の研究にあたらせ、日本ではほとんど手付かずの状態にあるウクライナ文学研究の基礎を築く予定である。日本のベラルーシ文学に関しても、現状をさらに発展させるべく、セミナーや研究会によってベラルーシへに対する日本社会の関心を惹起するよう努めたい。
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