研究課題/領域番号 |
15H03194
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
静永 健 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (90274406)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中国文学 / 日中学術交流 / 目加田誠 / 留学 / 1930年代 / 北平 / 東方文化事業 / 漢籍 |
研究実績の概要 |
この課題研究は、中国文学研究者目加田誠が書き残した1930年代の北京留学日記をもとに、その解読と考証を通して、約80年前に展開されていた日中の学術交流の実態を解明そして分析し、今日のわれわれがほとんど忘却してしまった先人の学術交流の足跡を再び新たに顕彰することによって、これからの東アジアの学術交流、そして東アジアの国際関係(文化面のみならず政治面、経済面も含む)に少しでも良い効果をあたえようと企図するものである。 この新発見の日記の筆者である目加田誠を含め、日記に登場する人物たちの多くは、その十数年後(すなわち日中戦争・太平洋戦争後)の日本の東方学研究の道筋を定めた、いわゆる「日本東方学の創始者たち」である。彼らの戦前の事績は、これまでは戦後(またはその人物の没後)の回想録などによって主に進められてきた。そこには、一部に故意の隠蔽や美化された表現が介在し、必ずしも、当時(=戦前)の実情を正しく伝えているとは言い難い部分がある。このことを鑑みれば、今回発見された目加田誠の日記は、当時の原資料である点で、他に類例が無く、極めて独自の、そして貴重な一級文献である。 日記の発見以降、研究代表者である静永は、他に保存されている証拠資料や、現地調査、そしてこの日記にもとづいた聞き取り調査などを行ってきたが、この四年間の助成を得て、この日記の公開や注釈、また関連する多くの事柄の解明に努めたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
助成を得た第一年度の平成27年度は、これまでにも継続してきた『北平日記』読書会を開催し、その全文の翻字と注釈をつける作業に集中的に取り組んだ。 読書会は以下の合計20回開催した。5月30日、6月27日、7月25日、9月5日、10月4日、10月24日、11月28日、12月26日、1月23日、2月27日(以上10回は、大野城市役所の協力をえて大野城市役所会議室を会場とし、大野城市の一般市民の方々にも集まっていただいて公開講座として開催。毎回参加者は20名前後)。4月11日、5月9日、6月13日、7月11日、8月8日、9月26日、11月7日、12月5日、1月16日、2月6日(以上の10回は、九州大学文学部中国文学研究室にて開催。竹村則行九州大学名誉教授、呉紅華九州産業大学教授、査屏球復旦大学教授などにも助言者として参加していただき、注釈作成において多くの貴重な意見をいただいた)。 以上の平成27年度の活動によって、目加田誠『北平日記』のほぼ全文の翻字とその注釈が完成し、今年度平成28年度中の公開に向けてのおおよその準備がととのった。公開の方法はまだ検討中であるが、研究紀要など活字公開のほか、文学部中国文学研究室のホームページに新たに専用の研究成果公開のページを設置して、自由に閲覧できるようにしたいと考えている。 また、海外の研究者にも広くこの日記の存在を知ってもらうためにも、中国語版の翻訳や、海外の学術研究会や大学公開講座に出向いて、この研究成果を紹介したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
助成第二年目となる平成28年度は、目加田誠『北平日記』全文の翻刻とその注釈の公開を目差している(12月頃を目途に)。また、次の作業として、今年度より中国語による翻訳(日記本文と注をあわせた全て)を開始する。この翻訳稿は平成28年度以内(平成29年3月)かあるいは平成29年度内での完成を期したい。なお、同時に九州大学文学部のホームページにも紹介記事や、データ公開を行い、積極的に研究成果の発信を行うことを努力したい。 次に、大野城市役所とのこれまでの協力体制を維持するために、大野城市で開催している市民講座『北平日記』読書会を継続し、市民レベルの研究成果公開にも努力したい。また平成28年度からは積極的に海外の学術学会にも参加し、この目加田誠『北平日記』を海外にも紹介してゆくことを予定している。ちなみに、今年度は11月に福建省の廈門大学、12月に上海の復旦大学に出張し、この『北平日記』に関連する内容の報告を行う予定である。さらに他にも、発表の機会を探したい。 そのほか学術調査として、二松学舎大学に保管されている橋川時雄の旧蔵書や、東京大学東洋文化研究所の塩谷温の旧蔵書などについても、目加田誠との関係がわかってきたので、熟覧調査を行う予定である。また、小川環樹、浜一衛、石橋丑雄、小竹武夫など、目加田誠が北平留学中に親しく交流した研究者についても、その事績などを調査し、新たな学術活動の足跡を見つけ出したい。これらは、戦後日本の中国学の創生と発展に大きく関わっており、その研究の意義は大きいものがあると確信している。
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