研究課題
2年目にあたる平成28年度は「発展」段階として、初年度に座学中心の研究会で培った「理論」的共通理解をもとに、さまざまな「実践」の場へと活動領域を拡大した。研究会のゲストに小松正史氏(京都精華大学)・小山田徹氏(京都市立芸術大学)を招き、それぞれ「環境音楽」を巡るワークショップ・「オープンダイアローグトポロジー」の実践的講習会という参加型イベントを実施した。また、定例の研究会も継続し、本年度は松嶋・比嘉・鵜戸が研究発表を行った。「発展」段階でもっとも重視していた共同フィールドワークは、北海道浦河町「浦河べてるの家」および鹿児島・奄美群島の2回実施され、いずれも大きな成果をあげた。前者においては現地での活動に積極的に参加する一方で、向谷地生良氏(北海道医療大学教授・浦河べてるの家理事)を本研究会へ招聘することで合意した。後者ではフィールドワークの経験にもとづく共同執筆の準備にとりかかるとともに、現地の研究者・郷土史家と多く交流し(町健次郎氏(瀬戸内町立図書館・郷土館学芸員)・鈴木真理子氏(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター奄美分室研究員)・「奄美郷土研究会」のみなさん等)、今後の共同研究の礎を築くことができた。対外的・社会的貢献活動としては、『むかしMattoの町があった』自主上映会(広島)をエコゾフィー研究会が共同主催し松嶋がレクチャーを行った。また、前年度本研究会に招聘した篠原雅武氏が中心となって開催された第4回OSIPP稲盛財団寄附講座公開セミナー「地域の縁の現在:建築の新しい展開」(大阪)に、松嶋以下数名のメンバーが参加した。海外ネットワーク構築における本年度最大の成果としては、三原が招待講演に赴いた仁荷大学校(韓国)において、エコクリティシズムの世界的権威であるスコット・スロヴィック教授(アイダホ大学教授)との知己を得、その後も連絡をとりあっていることが挙げられる。
2: おおむね順調に進展している
「環境・社会・精神のエコロジー」を美的に統合する「エコゾフィー」的思考を共有する基盤を構築するために共同研究を続けてきた本研究グループが「発展」段階と位置づけた本年度は、「実践」の場面に力点が置かれることとなった。その意味では、まさに「三つのエコロジー」が交わる範例的な地点とも考えられうる「浦河べてるの家」および鹿児島・奄美群島における一連の共同フィールドワークを成功させたことによって、その目的はほぼ理想的なかたちで達成されたと言っても過言ではないだろう。また、その目に見える成果として「共同執筆型」の文集を作成するという企画も始動し、この共有された経験が一過性のものに終わらないよう話し合いが続けられている点も重要である。さらに、こうしてフィールドに出ることによって、(「研究実績の概要」に記したように)さまざまな人的交流が生まれ、これらのネットワークを活かした新たな共同研究の萌芽が垣間見られたことも、特筆すべき成果であると言えるだろう。定例の研究会においても、より「実践」的な側面が強調されるようになったことは重要である。また、昨年度の「理論」的な準備期間を経て、メンバー各自がそれぞれの専門領域において重要な論考を相次いで発表したり、内外の学会や市民参加型イベントにおいて発表・講演を行ったりという「実践」を手掛けたのも本年度の特徴で、その成果を持ち寄る場として研究会が機能しはじめたことも貴重な「発展」だと言えるだろう。他方で、海外ネットワークの構築に関しては、「点」的交流は拡大しているが、それを「線」さらには「面」として統合していくには至っていない。この点については、研究会のインテグリティを重視する観点からも当初の企図の有効性について反省的な議論が起こっており、方針転換も含めて次年度に解決すべき課題となるだろう。
上記のように、「実践」に力点をおいた平成28年度は、その最重要課題として共同フィールドワークを実施した。平成29年度は、まず、このフィールドワークの成果として「共同執筆型」のあらたな形態の文集を作成する作業に着手する。また、「理論」「実践」の両面にわたって推進してきた本研究の現時点での総括として、夏季休暇中に「エコゾフィー座談会」を実施する。この企画の内容としては、まず共通のテーマに沿って全メンバーが各自の専門の視点から執筆された論文を提出し、それら論文を全員でシェアしたうえで「座談会」形式の集中討議を実施する、という段取りを想定している。その成果は、一橋大学大学院言語社会研究科紀要『言語社会』第12号(2018年3月発刊予定)の「特集」として発表されることが内定している。また、これら共同作業による「発信」を中核に据えつつ、メンバー各自が国内外の発表媒体において個人の研究成果発表を行うことも積極的に奨励する。以上の「発信」を成功させることが本年度の最重要課題であるが、引き続き「エコゾフィー研究会」の例会およびゲストを招いての研究会を活発に行うことに変わりはない。本年度すでに招聘が確定しているゲストとして、昨年度のフィールドワークで交流を深めた向谷地生良氏(北海道医療大学教授・浦河べてるの家理事)がいるが、これをひとつの範例として本共同研究を通じて築きあげたネットワークを稼働させながら強化していくことが、最終年度のさらに先を見据えて今後の重要な指針となっていくことだろう。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 17件、 招待講演 21件) 図書 (8件)
稲賀繁美編『海賊史観からみた世界史の再構築』思文閣出版(図書所収論文)
巻: - ページ: 620-680
クァドランテ[四分儀]ー 地域・文化・位置のための総合雑誌
巻: 19 ページ: 69-76
信学技報
巻: 116(524) ページ: 113-118
巻: 116(436) ページ: 5-10
第17回自然環境復元学会全国大会講演要旨集
巻: 17 ページ: 23-26
巻: - ページ: 761-775
赤江雄一(編)『食べる-生命の教養学12』慶應義塾大学出版会(図書掲載論文)
巻: - ページ: 印刷中
片岡邦好・池田佳子・秦かおり(編)『コミュニケーションを枠づける―参与・関与の不均衡と多様性』くろしお出版(図書掲載論文)
巻: - ページ: 199-219
村田和代(編)『市民参加の話し合いを考える』ひつじ書房(図書掲載論文)
巻: - ページ: 51-73
社会言語科学
巻: 19(1) ページ: 54-69
10.19024/jajls.19.1_54
日本ブリーフセラピー協会編『Interactional Mind Ⅷ (2016)』北樹出版(図書所収論文)
巻: - ページ: 4-5
PLoS ONE
巻: 11(1) ページ: -
10.1371/journal.pone.0147199
巻: 19(1) ページ: 38-53
10.19024/jajls.19.1_38
Expressions maghrebines
巻: 15(1) ページ: 187-197
文学
巻: 17(5) ページ: 149-167
人工知能学会論文誌
巻: 31(4) ページ: 1-10
10.1527/tjsai.C-G31