研究課題/領域番号 |
15H03205
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉田 和彦 京都大学, 文学研究科, 教授 (90183699)
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研究分担者 |
森 若葉 国士舘大学, 付置研究所, 研究員 (80419457)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 印欧語比較言語学 / アナトリア諸語 / ヒッタイト語 / 中・受動態 / 文献資料 / 作為動詞 / 歴史比較言語学 |
研究実績の概要 |
過去2年間の研究に引き続き、今後の印欧語比較言語学の発展の鍵を担うアナトリア諸語を研究の中心にすえて、動詞形態論に関する実証的な分析を進めた。もっとも大きな成果は、接尾辞-ai-/-a-を持つ動詞クラスに見られる不規則な特徴を歴史比較言語学の立場から解明したことである。 ヒッタイト語動詞のうち、接尾辞-ye-/-ya-(< *-ye-/-yo-)を持つクラスの中・受動態動詞3人称単数は-yatta-(< *-yo-to-)という語末形式によって特徴付けられる(e.g. weriyatta(ri)「(彼は)呼ぶ」)。これに対して、接尾辞-ai-/-a-(< *-eh2-ye-/-eh2-yo-)を持つクラスは、接尾辞-ye-/-ya-を持つクラスと同様に末尾要素が*-ye-/-yo-に遡るため、-atta-(< *-aya-ta- < *-eh2-yo-to-)という語末形式が予想される。しかしながら実際の文献資料においては、規則的に予測される-atta-(e.g. handattari「(彼は)整える」)ではなく、不規則な-aitta-(e.g. handaitta)を持つ例が圧倒的に多い。 接尾辞-ai-/-a-を持つクラスは作為動詞であり、このクラスに属する大半の動詞は能動態のパラダイムだけを持ち、中・受動態のパラダイムを欠いている。その能動態のパラダイムは1人称単数-ami、2人称単数-asi、3人称単数-aizzi(< *-eh2-ye-ti)である。したがって、handaittaに代表される中・受動態動詞の不規則性は、対応する能動態3人称単数の-ai-という接尾辞からの二次的な形態的影響によって説明することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究はおおむね順調に進んだ。新しく得られた知見を動詞体系全体のなかに組み込み、ヒッタイト語動詞についての5日間の連続セミナーをカリフォルニア大学ロサンジェルス校で行なうことができた。また、コーネル大学で開催された国際会議においても、最新の研究成果を報告し、各国の研究者と有意義な意見交換を行なうことができた。
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今後の研究の推進方策 |
過去3年間、研究を効果的、かつ有機的に推進するために、5つのユニットからなる研究体制を組織してきたが、本年は最終年度であるために、「アナトリア楔形文字資料の検討」と「研究の実質的推進・総括」という2つのユニットを中心に活動し、4年間の研究を取りまとめることを目指す。 印欧語動詞の語幹形成母音を再構成する作業にあたっては、種々の音韻的・形態的要因を考慮に入れなければいけないが、昨年度の研究において直説法よりも命令法により古い特徴が保存されているということを裏づける事実を発見した。本年度は、この観察を裏づける事実をより広い観点から発掘することによって、語幹形成母音の歴史を体系的に記述することを試みる。 なお、研究成果の公表については、研究代表者の吉田が、5月にリュブリャナ大学において、6月にミシガン大学において、講演および研究発表を行う予定である。このような機会を活用し、各国の研究者との国際的な連携のもとで、レビューや助言を受ける機会を積極的につくる。
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