研究課題/領域番号 |
15H03211
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
岸江 信介 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 教授 (90271460)
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研究分担者 |
真田 信治 奈良大学, 文学部, 教授 (00099912)
中井 精一 富山大学, 人文学部, 教授 (90303198)
西尾 純二 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (60314340)
松丸 真大 滋賀大学, 教育学部, 准教授 (30379218)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 発話行為 / 語用論的視点 / 地域差 / 男女差 / 待遇表現との関連 |
研究実績の概要 |
本研究では、近畿方言における配慮表現の特徴について地域差および男女差の観点からその実態を明らかにするため、以下の3点を目的としている。 1.近畿方言には、京阪方言のように複雑な敬語体系を有する方言と、無敬語に近いとされる方言が存在する。敬語体系を異にする方言間には配慮表現においてもが差がみられ、有敬語地域ほど配慮表現もバリエーションに富むと考えられる。この仮説を検証する。 2.対人コミュニケーション上の働きかけには、地域差のみならず男女によってどのような差が現れるのか、調査を通じて、その特徴を浮き彫りにする。3.ことばの運用面に視点を据え、地理的研究を展開する。 平成27年度の研究成果として、研究計画では、1.京都・大阪における配慮表現の面接調査(代表者・分担者・連携研究者・研究協力者)2.近畿地方全域での配慮表現に関わる通信調査[代表者・分担者]の2点を行うことになっていた。 1.では平成27年9月に大阪での調査を完了させた。大阪市内の区役所、福祉会館、老人憩いの家など15ヶ所で70名を超える大阪生え抜きの60代以上の方々全員と面会し、お一方ずつ配慮表現調査を実施し、ご教示を得た。また、この調査で得たすべてのデータを学生アルバイターの協力を得て、文字化し、『近畿方言における配慮表現』研究成果報告書―大阪市域調査編―総頁数282頁-を刊行した。平成28年度ではこのため、予定どおり調査が進まなかった京都市での現調査を第一義に考えている。 2.では、当初、近畿地方での通信調査を実施することを目標としていたが、27年6月に天理市で行った科研会議で、近畿地方の配慮を浮き彫りにするには、全国的な調査を経るべきであるという意見が出され、調査対象地域を近畿から全国へと拡大した。調査は平成27年7月から同年11月にかけて実施し、全国各地から約700名余の方々から回答を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、研究課題遂行のため、2つの調査を実施した。まず、目的のところで指定した、「複雑な敬語体系を有する方言」として、大阪市域を対象とした調査を実施した。大阪市内の調査は、大阪市内で生育した60代以上の方々、70名に及んだ。当初の計画では、大阪市とともに全国でも最も複雑な敬語体系を有するとされる京都市域においても大阪市と同様の規模の調査を実施する予定であったが、計画していた調査時期(平成28年2・3月)に大阪市域調査の調査結果をできる限り整理するという方向に転じたため、調査を翌年に延期し、大阪調査の結果の文字化や入力作業を優先することに変更した。この結果、大阪市域で行った約70名の方々全員の調査票に対する回答のデータ整理が完了したほか、平均して約1時間以上に及んだ話者とのやりとりもすべて文字化することができた点は、計画以上の成果であったと評価できる。 配慮表現の調査研究は、まだ緒に就いたばかりであり、実際の面接調査となると、話者に質問をして方言語形などの回答を得るというような、これまでの方言調査とは異なるため、試行錯誤的にならざるを得ない。このため、場面設定を行った上で発話行為を求める方法で行った。調査員と話者とのやりとりは話者の承諾のもとに録音し、同時にこれらを文字化した。また、自由回答とは別に話者自身による説明部分もすべて文字化が行えた点はこれから予定している調査を計画実施する上においても問題点を浮かび上がらせることができ、予想以上に計画が達成できたものと評価することができる。 一方、計画していた近畿地方での通信調査は、近畿における配慮表現の実態を色濃く浮かび上がらせるため、対象地域を近畿から全国に拡大した。この結果、全国各地の公民館、教育委員会等かにら多大なる協力を頂き、約800地点から回答を得ることができた点も予定していた以上の成果が得られたと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前年度に大阪で実施した調査に引き続き、京都、洲本での面接調査を行う。また、通信調査の補充調査として、28年度内に現地に赴き、調査票を配布する「留め置き法」による調査を並行して実施するため、特に回収データが極めて少なかった、東北地方および首都圏、鹿児島県の離島などへは直接赴き、各地で調査票の配布を行う予定である。 京都市域と淡路島の洲本市域を中心に配した調査は、有敬語(京都)/無敬語(洲本)といった視点からの調査であり、両都市、いずれも男女30名ずつの老年層の生え抜きの男女を選び、面接による調査を実施する。また、通信調査は当初、近畿地方に限定して通信調査を計画したが、地域差がつかみにくく、さらに地域差を浮き彫りにさせるために地域を拡大し、全国通信調査に切り替えている。ほぼ予定したデータは回収できているが、全国的にデータにばらつきがあり、東北地方、鹿児島県離島、首都圏等のデータが極めて少ないため、上述したとおり、28年度において補充調査を実施する。全国通信調査結果の入力と、入力を終えたところから言語地図化を行う。 研究打ち合わせ会議としては、学会開催の時期(平成28年5月 於学習院大学)や調査期間中(平成28年9月3日~9月6日 於京都市予定)に実施する。 なお、27年度の大阪市での調査報告および配慮通信調査のデータ入力さらには京都調査も完了しており、データ分析ができる状態になっているため、これらの調査結果をもとにした、科研メンバー相互の意見交換の機会が持てるはずである。また、平成28年8月10 日-12日に中国江蘇省南京で開催される第14回都市言語調査国際シンポジウム(14th Urban Language Seminar)において配慮科研の成果の一部を発表する予定である。
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