研究課題/領域番号 |
15H03221
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
河合 靖 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (60271699)
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研究分担者 |
佐野 愛子 北海道文教大学, 外国語学部, 准教授 (20738356)
小林 由子 北海道大学, 国際連携機構, 教授 (30250517)
飯田 真紀 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (50401427)
横山 吉樹 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (70254711)
河合 剛 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (70312981)
山田 智久 北海道大学, 国際連携機構, 准教授 (90549148)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多層言語環境 / 複言語主義 / translangaging / 言語政策 / バイリンガル教育 / 言語学習動機づけ / 対照言語学 / 言語交換 |
研究実績の概要 |
本研究は、東アジア圏の国際的な人口流動性が高まり、欧州のような複言語主義的多層言語環境が出現するという予想のもとに、多言語社会香港の言語教育政策、日本人子女教育、第二言語教育、使用言語の言語学的考察、香港と日本の学生による言語交換などを通して、日本が多層言語環境化する際の課題に示唆を得ることを目的としている。 香港の言語教育政策は、学校群に分けて英語、広東語を教育言語としてどの割合で用いるか差をつけてきている(バンドシステム)が、その変遷の実態については不明な点が多い。今回、各年齢層の香港在住者にインタビューを実施することで、これまで報告資料による伝え聞きであった状況を徐々に脱却できる可能性が見えてきた。また、日本人コミュニティへの聞き取り等をもとに、香港では教育の選択肢が豊富で、また、香港の人々が複数言語能力を身に付けることに貪欲な様子が見えてきた。あわせて、香港の日本語学習者が日本のポップカルチャーに対する興味を学習の強い動機づけにしていることや、日本語と広東語の終助詞に相似的特徴が見られるなど、日本と香港をつなぐ興味深い事実を考察できた。さらに、香港と日本の大学生が言語交換学習を行うことで、第二言語不安の解消や積極的な言語活動への参加が促進される可能性が示唆された。 この2年間に、英国のEU離脱、米国・仏国大統領選などで、言語・文化の多様化に対する反動的な動きが世界的に顕在化してきているとされる。科学技術の発達にともない、人口移動と異文化・異言語の交流が加速度的に進む時代である。人類がアフリカ大陸から拡散する過程で、異なる言語集団と交流する必要性が生まれたはずである。多層言語環境は、太古の人類が直面した進化上の問題であって、そこには種としての人類の発展や人間社会理解の鍵が含まれていると思われる。この研究が、そうした視点で言語と人類の関係をとらえる発端になることを願う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共同研究代表者・分担者、連携協力者が参加する学術的集会を2回開催することができた。一つ目は、2016 年 6 月 25 日(土)、香港大学において、本研究プロジェクトチームと香港大学日本研究科の共催により開催した公開シンポジウム「Multilingual Hong Kong as seen through the eyes of Japanese people」である。「香港の中等教育における EMI について: COLT 観察法を用いた分析」(横山吉樹)や「香港在住の日英バイリンガル児童の作文力の発達に関する考察」(佐野愛子)など、本科研の分担者・連携協力者による7件の発表があった。香港の日本語教育関係者および日本人学校、日本語補習校などの日本人子女教育関係者などを迎えて、本科研の成果を発表した。二つ目は、2017年3月9日(木)に、本科研補助金と北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院の院内共同研究補助金等を用いて北海道大学学術交流会館において開催された、国際広報メディア・観光学院主催の国際シンポジウム「多層言語環境時代の外国語教育」である。全体として21件の発表と、1件のパネル・ディスカッションがあり、そのうち本科研の分担者・連携協力者の発表は、「Combining Online Language Exchange with Public Speaking」(KAWAI Yasushi)や「香港における日本語学習とポピュラーカルチャーとの関連-香港における日本のポピュラーカルチャーは日本語学習とどう関わるか」(小林由子)など8件であった。これらの発表を通して、それぞれの研究において、資料の収集と分析・考察がほぼ予定通り進んでおり、多層言語環境に関する理論言語学的考察、応用言語学的考察、教育工学的考察の3分野それぞれにおいて、研究が進捗していることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はシンポジウムを開催し、研究報告集を編集する。多言語社会香港を研究対象として、言語学・応用言語学・教育工学的視点から多層言語環境研究にアプローチしていく。東アジア圏の言語である日本語、中国語、広東語と国際語である英語などの比較言語学的考察をこれまで進めてきたが、今後、韓国語、台湾の諸言語、フィリッピンの諸言語なども考察の対象として視野にいれ、連携協力者を求めて研究の幅を広げていきたい。あわせて、応用言語学的視点から、言語教育政策や言語政策、短期・長期移住者の言語状況などについても、香港を出発点として、台湾やフィリッピン、あるいはアジア諸国からの日本への移住者などについても知見を得て、未来予想図として本研究で描いていた多層言語環境が、すでに今ここにあるものとして提示できるように、発送を転換していきたい。その研究文脈のなかで、観光による人口の移動と異言語・異文化の交流をテーマに、その促進や問題への対応を進める上でのひとつの切り口として、観光メディアの存在に焦点をあててみたいと考えている。教育工学的アプローチでは、本科研で進めてきたオンライン言語交換語学学習の知見をまとめると同時に、観光や地域振興における多層言語環境問題に対応できる人材育成を言語教育の立場から提言していきたい。今年度は、本科研によるシンポジウム「今ここにある多層言語環境社会(仮題)」を、2017年6月24日(土)に北海道大学情報教育館スタジオ型多目的中講義室で開催する予定である。また、5月19(金)・20日(土)には第34回中華民国英語文教学研究国際検討会において、研究代表者と研究分担者3名が共同で招待講演を行うことが決まっている。研究報告集は、研究代表者が多層言語環境に関する理論言語学的考察、応用言語学的考察、教育工学的考察の3分野で研究分担者、連携協力者に原稿を依頼し、今年度後半に編集する予定である。
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備考 |
北海道大学情報基盤センターのサーバ条に構築したものであるが、セキュリティ向上の必要性から、2年目から閲覧にはIDとPWの入力を求められるようになった。(ID: guest, PW: hi74bnm3)
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