研究課題/領域番号 |
15H03255
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
小田原 琳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (70466910)
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研究分担者 |
鈴木 珠美 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (20641236)
藤井 欣子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (30643168)
秦泉寺 友紀 和洋女子大学, 人文社会科学系, 准教授 (60512192)
古川 高子 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 助教 (90463926)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ボーダーランド / 境界地域 / 西洋史 / 記憶 |
研究実績の概要 |
本研究は、19~20世紀ヨーロッパでの国境設定・再編にともなって創出された境界地域(ボーダーランド)であるイタリア・オーストリア・スロヴェニア等が国境を接するアルペン-アドリア地域における地域住民の経験と、アイデンティティをめぐる論理、記憶の継承を明らかにすることを目的としている。初年度である27年度は、4回の研究会と1回の国際ワークショップを開催した。 第1-3回研究会では、先行研究の検討を中心に、研究課題のあぶり出しを図った。この結果、(1)言語の多様性が文化の多様性を現さない=複数の言語を使用しつつ比較的均質的な文化に住民が暮らすという境界地域の特質、(2)ナショナリズムという思想的運動が、言語に依拠することによって、地域社会に分断線を引こうとする歴史、(3)現状の国民国家的な枠組みで境界地域を分析することの困難、(4)境界地域をネイションの辺境ではなく各種の交流・移動の現れる地域として位置づけることの重要性、などを共有した。 計画では第3年度に実施する予定であった国外での国際研究集会を、初年度に開催した。本科研の最重要概念である「ネイション帰属への無関心さ」を指摘したピーター・ジャドソン氏が現在所属する欧州大学院大学(イタリア・フィレンツェ)に、代表者小田原が派遣されたため、ジャドソン氏と協力して、ワークショップを開催することができた。同大学に所属する、関連する研究分野の研究者たちとの意見交換のなかでは、比較史的視座の必要が繰り返し指摘された。 また、ドイツ、イタリア、スロヴェニアでの史料調査・フィールドワークを実施した。 各研究会および国際ワークショップの概要は、ウェブサイトに掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定していた研究会・国外史料調査は計画通り実施することができた。上記の国際研究集会を初年度に開催することができたことによって、課題の発見・再確認ができた。また国際的な連携をプロジェクト初期から始めることができたことは、研究の進展上得るところが多く、極めて有意義であった。今後のネットワークの構築・拡大にも資するところが大きいと考えられる。上記国際研究集会を開催するための出張で、各分担者が追加の史料調査・フィールドワークを行うことができたことも、次年度以降の研究の準備として意義が大きかった。 分担者各自の研究課題も一層明確になった。(1)小田原(代表者)は、イタリア・スロヴェニア・クロアチアの境界地域での歴史認識の構築と、イタリアというネイションの記憶における同境界地域の歴史的経験の影響、(2)鈴木(分担者)は、南ティロールの国籍選択に際しての住民のミクロな戦略、(3)藤井(分担者)は、ハプスブルク君主国という多民族国家における国民化運動の多面的な性格の分析、(4)秦泉寺(分担者)は、南ティロールの歴史認識における地域固有のイニシアティブの問題、(5)古川(分担者)は東アルプス境界領域研究を通じての、オーストリア史叙述の再検討である。各自の課題に加え、共同研究としての課題の共有も十分に図られている。予想以上の進捗状況であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究を通じて、今後、実証を踏まえて理論的に考察すべきトピックが浮かびあがりつつある。(1)「ネイション帰属への無関心さ」という概念を本質化せず、地域や時代状況に即して理解すること、(2)地域間比較の促進、(3)「境界」という概念の幅広い理解の可能性、などである。 こうした問題意識から、次年度は以下のように研究を進める予定である。(1)関連領域を専門とする研究者を招聘し、ワークショップを開催(第2年度は井出匠氏(スロバキア・ハンガリー境界地域研究、学振特別研究員)、鈴木哲忠氏(イタリア・スロヴェニア・クロアチア境界地域研究、中央大学兼任講師)を予定)、(2)海外史料調査(分担者古川をドイツ、イタリア、オーストリアへ派遣)、(3)引き続きウェブ上での研究成果・進捗状況の公開、(4)国際研究集会で交流した研究者との対話の継続、ネットワークの構築。 共同研究が、各自の研究のもちよりとなるだけでなく、相互の比較等を通じて、上記のようなトピックについて歴史学に新しい視座をもたらし、同時に現代世界の理解にも資するものとなるよう、理論的な考察も発展させる必要があると考える。
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