研究課題/領域番号 |
15H03256
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
新井 由紀夫 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (30193056)
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研究分担者 |
都築 彰 佐賀大学, 教育学部, 教授 (20163850)
鶴島 博和 熊本大学, 教育学部, 教授 (20188642)
井内 太郎 広島大学, 文学研究科, 教授 (50193537)
吉武 憲司 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (60210671)
朝治 啓三 関西大学, 文学部, 教授 (70151024)
有光 秀行 東北大学, 文学研究科, 教授 (80253326)
苑田 亜矢 熊本大学, 法学部, 教授 (80325539)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 書簡 / 西洋中近世 / 史料論 / コミュニケーション / データベース |
研究実績の概要 |
(1)書簡史料データベース完成によって、Paston Letters のうち写しではなくやりとりされた実際の書簡史料である約460通について、Medieval Family Databese との連携して書簡形状と内容の相関関係分析が可能となった。 (2)2度開催した全体集会を通じ以下のことが明らかになった。完成したデータベースをもとにパストン家が受け取った貴族書簡の形式的特徴の分析を試みた結果、書記による整った書体か否か、紙の大きさと余白の多さ、紙の質の違い、書簡のおり方と形状、印章はどこに付されるか、挨拶部分の書式、差出人名の有無、およびそれが書かれる位置、末尾の表記、署名(自著)の有無、宛名の表記などを指標として着目する必要が明らかになった。データベースを利用しこれらを指標を用いて考察すると、例えば第3代ノーフォーク公の書簡(1469年)は、おそらく国王のシグネット同様、撚り紐で縁取られた印章が表面(文面(内)側)におかれ、中央上に、The Duc of Norflok と書かれるなど、国王書簡の書式を明らかに模倣している形式であることがわかった。その場合、政治・行政上の国王権力をいわば代行する権威を示したいという意図が背後に推測できる。比較の視点からも傍証が得られた。16世紀イスラーム世界におけるサファヴィー朝とオスマン朝間の外交書簡冒頭部の形式と、受取人称号から、両者の関係性の変遷を論じた市川千乃報告は、外交書簡の形式を不相応に飾りたてる行為の背後に潜む意図を分析する重要性を明らかにした。書簡で異なる称号を使い分ける政治的意味を探るもの(朝治報告)、年代記所収の書簡史料を分析の俎上に載せる試み(都築、吉武報告)や、都市(佐々井報告)やジェントリ女性の書簡(古城報告)の特徴を析出するなど、書簡が担った西洋中近世特有の機能を明らかにする論点の共同研究が進展した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)西洋中近世における書簡とコミュニケーション関係文献データベース(英950件・独450件・仏150件、合計1550件)をヴァージョンアップできた。 (2)全体集会を2回開催し、共同研究の論点整理ができた。西洋中近世における書簡の史料的特徴・形式的特徴と内容との関連について議論するうえで重要な論点についても整理することができた。 (3)書簡史料データベース((The National Archives, Public Record OfficeおよびBritish Library所蔵のイギリス中世後期に関する書簡マニュスクリプト(中世英語・フランス語・ラテン語で書かれた手書き写本)のうち、実際に書簡としてやりとりされたオリジナル史料を対象とし、それら史料所在番号・宛名・受取人名・日付・形状(縦横サイズ)・素材・行数・内容と書式の特徴を調査し、それらをエクセルを利用してデータ入力し、データベースを作成)を完成させることができた。 以上のことから、全体としておおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)書簡史料の定義と連動させて、西洋中近世史における書簡研究の意義に関して理論的考察を今後はより進展させることが必要である。 (2)それらの理論的考察を共有したうえでの、研究代表者・分担者・連携研究者を中心とした個別研究を推進する。 (3)個別研究においては、時代や地域を異にする研究者がそれぞれの書簡を扱うことが中心となる。その際に、書簡からでしか見えてこないこと・書簡ならではの新しい知見を、共同研究として集約していくことを、次年度は目標とする。 (4)また、書簡とコミュニケーションという、当初の課題である論点についても、共同研究としての成果を出すべく、日本西洋史学会での小シンポジウム開催に向けて、全体の論点整理を行っていく。
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