研究課題/領域番号 |
15H03257
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木戸 衛一 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (70204930)
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研究分担者 |
市川 浩 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (00212994)
高橋 博子 明治学院大学, 付置研究所, 研究員 (00364117)
北村 陽子 愛知工業大学, 工学部, 准教授 (10533151)
佐藤 温子 大阪大学, 国際公共政策研究科, 研究員 (20748264)
竹本 真希子 広島市立大学, 付置研究所, 講師 (50398715)
小島 智恵子 日本大学, 商学部, 教授 (70318319)
友次 晋介 広島大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90622019)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 核エネルギー / 「平和」利用 / 記憶 / 表象 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトは、2015年5月30日、日本科学史学会が開催された大阪市立大学で、相互の問題意識などを確認し合って、実質的なスタートを切った。本年度においては、各人が担当する地域における核エネルギーの表象に関する資料・情報の収集に努めた。 複数のメンバーが同時に関わった事業としては、木戸・市川・北村・高橋(および研究協力者の若尾)が、2015年9月11日、ドイツのドレスデン郊外ロッセンドルフにあるヘルムホルツ・センターを訪問して、古参の研究員のレクチャーを受け、欧州の核エネルギー政策に関する知見を深めて問題意識を深めた。木戸・北村・高橋は引き続き、旧東独ウラン鉱跡地を訪れ、「ドイツ統一」によりウラン採掘を終了してもなお事後処理に追われる、核エネルギー調達の裏面を実地に見聞した。 これらの知見を踏まえ、2015年9月27日、大阪大学において、全員出席のもと研究会を開催、各自の研究進行状況について情報を交換するとともに、山崎正勝・東京工業大学名誉教授およびセバスティアン・プフルークバイル放射線防護協会会長(ドイツ)のレクチャーを受け、議論を展開した。この研究会の場で、本プロジェクトの成果として、論集『核サイトの同時代史-「平和利用」の夢と現実』(仮題。出版社としては昭和堂を内定)を刊行することが合意された。 また、木戸・北村・竹本・若尾は、ドイツ語圏における核エネルギー「平和利用」の表象に関する情報を交換すべく、独自の学習会を重ねた。 さらに、木戸と竹本は、「原子力」の分野も盛り込んだ広島市立大学広島平和研究所編『平和と安全保障を考える事典』(法律文化社、2016年)の編集委員として、核エネルギーに関連する諸項目の編集・執筆に携わった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトによって参加者各自に配分される予算は、かなり限られた額になっており、研究分担者の場合、1回海外出張に行っただけで相当程度の自己負担もせざるを得ない状況にある。したがって本共同研究は、海外ゲストを招聘してのセミナーの開催も含め、当初想定していたよりも規模を著しく縮小することを余儀なくされた。それにもかかわらず、プロジェクトのメンバーの個別調査は、論集執筆・出版という具体的な目標が設定されたこともあり、基本的には順調に進んでいると言える。 他方、本プロジェクトは、もともと科学史・核問題を専攻している研究者と、より一般的な西洋史を専攻している研究者との共同で進められているが、両者の間にある問題関心のズレを埋め、科学に関わる後者の知識面のキャッチアップを図ることが大きな課題となっている。その意味で、ドイツ・ロッセンドルフのヘルムホルツ・センターに5名が共同で訪問し、レクチャーを受け討論したことは、お互いの共通認識の醸成に非常に有用であった。しかし他方、その後の大阪大学における研究会では、ロベルト・ユンクやギュンター・アンダースといった、核エネルギーの「平和利用」を原理的に批判するドイツ語圏ジャーナリズムの評価をめぐって、本来の専攻の違いに由来する基本的な問題認識の乖離がやはり明らかとなった。この問題意識のギャップを埋めることがどの程度可能なのかについては、まだ確たる見通しが立っていない。
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今後の研究の推進方策 |
「3・11」から相当年数を経過してもなお、核エネルギーの「平和利用」に関する人文・社会系の学問研究の一般社会への還元がほとんど確認できないという現状を打開するため、上記『核サイトの同時代史-「平和利用」の夢と現実』(仮題)の出版に向けて、各メンバーの調査・分析のブラッシュアップを図る。一部のメンバーは、大学での講義・演習の場も使いながら、所期の目的の達成を試みる。そして、当面2016年9月末を目途に、全員が出席しての研究会を開催し、各自の原稿を相互に検討する機会を持つ。その際、本プロジェクトとして、海外からの講師を独自に招聘する余裕があるのかどうかについては、なるべく早い時期に決定することとする。 他方、特にドイツ語圏の現代史を専攻する研究者グループは、独自の学習会を重ね、また関連する学会・研究会に共同参加することを通じて、知見の共有と深化を目指すこととする。また、研究対象地域とはかかわりなく、日本平和学会の「グローバル・ヒバクシャ」分科会や「フクシマ・プロジェクト」などとの連携も図る。 なお、初年度、ドイツ・ロッセンドルフのヘルムホルツ・センターへの共同訪問がきわめて有意義であったことから、次年度においても、米国のロス・アラモス国立研究所などを共同調査しようとの提案もなされている。その有用性については、プロジェクト参加者の間で一定の合意が得られているものの、予算上の制約から、必ずしも実現できるとは断言できない状況にある。
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