研究課題
当初の計画では、分子レベル安定同位体分析CSIA:Compound-Specific Isotope Analysisの測定は、分析試料を国内で調製し、実際の測定は、海外研究協力者である英国・ヨーク大学Craig教授のラボで行う予定であった。しかし、幸いなことに、平成28年度科研費基盤研究(A)(研究代表者;宮田佳樹)が採択され、GC-C(ガスクロマトグラフ-燃焼炉)を購入できることになった。東京大学総合研究博物館に設置してある質量分析計IRMSにGC-Cを接続して、国内でCSIAを行うシステムを構築する計画がスタートした。今年度は、GC-Cシステムの機種を選定・購入し、8月に機器を設置し、質量分析計との接続作業を行った。その後、主に国際標準試料と、脂質を充分に抽出することが出来ることがわかっている典型的な土器胎土抽出試料を用いて、使用するGCカラムの選定、カラム温度・Heガスの流量・燃焼温度など有機化合物の分離条件、単一化合物同位体分析を行う条件の検討を行った。土器付着炭化物、土器胎土、食材原料について、分析試料から脂質を中心とする有機化合物を抽出する方法を確立した。抽出試料の化合物濃度をGCで測定し、GC-MSによって有機化合物の同定をした上で、適切な濃度のヘキサン試料溶液をGC-Cシステムに導入し、パルミチン酸とステアリン酸をはじめとした脂肪酸など有機化合物の炭素安定同位体比を測定する一連の操作手順を確立した。土器で調理した食材を推定する上で大きな役割を果たす、パルミチン酸・ステアリン酸の炭素同位体比を充分な精度で測定できる環境を実現した。考古・文化財資料に特化した、国内で唯一の分子レベル安定同位体分析を行う質量分析計システムを構築し、測定、分析を開始した。
2: おおむね順調に進展している
前年度に繰越を行った当初の計画では、今年度夏から、脂質分析用試料を携行し、英国・ヨーク大学Craig教授のラボで分子レベル炭素同位体分析を行うことを想定していた。国内で、土器胎土と土器付着炭化物から有機化合物を抽出し、GC-MSにより抽出された有機化合物を同定する作業を実施した上で、渡英する計画であった。平成28年度科研費基盤研究(A)(研究代表者;宮田佳樹)が採択されたことにより、現有の元素分析計-質量分析計システムに、新たにもう一つの試料入力ポートを設置することとした。GC-C(ガスクロマトグラフ-燃焼炉)を新設し、ガスクロマトグラフで有機化合物を分離して、燃焼させた上で、順次質量分析計に導入し、それぞれの化合物の炭素同位体比を測定することが出来るシステムを構築した。このシステムを運用し、土器で調理した食材のグループを推定するために用いられるパルミチン酸・ステアリン酸、およびその他の脂肪酸や有機化合物の炭素同位体比を測定する作業を開始した。この分子レベル炭素同位体分析を進める上で必要な分析条件を検討しながら測定を進め、充分な精度で測定・分析が出来ることを確認した。また、土器胎土・土器付着炭化物・食材原料などの分析試料から、汚染を防ぎながら有機化合物を抽出する方法を確立した。さらに、抽出した有機化合物を、GC-MSにより同定し、この溶液をGC-C-MSに導入し、分子レベル炭素同位体分析を行う分析手法を洗練させ、確立した。
今年度に構築したGC-MS、GC-C-IRMS・EA-IRMSシステムを駆使して、出土した土器で煮炊きした食材を明らかにする研究を加速させる。脂質分析に関する技術革新を行うと共に、遺跡から出土した土器の分析を続ける。土器胎土、土器付着炭化物から有機化合物を抽出して、化合物の同定を行い、これまでに知られている食材を特定できるバイオマーカーを探索する。また、この抽出試料について、分子レベル炭素同位体分析を行い、主として、パルミチン酸・ステアリン酸の炭素同位体比を測定して、食材グループの特定を行う。実験環境からの汚染を防ぎ、より少量の試料で分析が可能になるよう抽出方法の改善を行い、同時に、質量分析計の精度・感度を向上させる方策を検討する。一方、これまでに提出されている食材グループのデータは、主としてヨーロッパのデータで構成されている。海産生物・淡水生物・貝類・サケ/マス・地上植物・非反芻動物/反芻動物などの食材グループについて、日本列島における食材のデータを蓄積する必要がある。2004年以来、10年以上にわたって続けてきた、現生食材を模造土器で煮炊きしておこげを生成させる実験で用いた原料食材、煮炊き実験土器について、測定・分析を行い、日本列島における原料食材のグループ分け、煮炊き前後の脂質同位体比の変化についての情報を、収集する。新たな食材を含めて、現生食材の測定・分析を進め、日本列島食材データベースを構築することが、重要な課題である。
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