本研究は、8世紀の方位測定法と精度的限界などを具体的に検証するとともに、その前段階についても検討をおこない、長らく論争が続いている7世紀以前の使用尺度を含めて、不明な部分が多い日本古代の測量技術と尺度の実態を解明することを目的としている。これには、実物のデータや文献史料の分析に加えて、各種の考古学・歴史地理学的成果の検討と実験が必要となるが、そうした作業をつうじて、中国や朝鮮半島との交流を含めた東アジアの科学技術史の中に、日本古代の測量技術を位置づけることをめざした。 5ヵ年計画の研究の最終年度にあたる本年度は、ひきつづき中国古代の技術書など、測量技術に関する基本的情報を整理し、日本に及ぼした影響について検討した。また、藤原京と平城京を対象に、条坊遺構の平面直角座標系データの集成と分析を進め、条坊ごとの最小二乗直線や全体の最小二乗方格の最新成果を算出した。そして、両京の条坊施工精度や藤原京と古墳占地との関係を含む、日本古代の測量技術の再検討をおこなった(小澤毅「藤原京と古墳の占地」『友史会報』第619号、奈良県立橿原考古学研究所友史会、2020年2月。入倉徳裕「古代の測量と遺跡の配置」『同上』)。さらに、藤原宮・京の発掘成果に基づき、宮内の建物配置計画と使用尺度を復元したほか、平城京の右京十条部分の調査成果を整理し、条坊区画と大和統一条里・京南辺条条里との関係を考察した。 地方官衙については、吉野離宮の建物配置と斎宮の飛鳥時代中心区画の構造、伊勢国府の方格街区の施工範囲および鈴鹿関の区画施設の構造と位置を再検討した。 このほか、尺の実物データをはじめとする尺度関係資料や、測量によって定めたことが確実な各種の発掘遺構・現存建築についても、国内および中国・朝鮮半島を含めたデータの収集・整理をおこない、7世紀以前の使用尺度を考察した。
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