研究課題/領域番号 |
15H03273
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
松村 恵司 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, その他部局等, 所長 (20113433)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 出土銭貨 / 考古学 / 貨幣史 / 経済史 / 和同開珎 / 貨幣経済 |
研究実績の概要 |
本年度は、旧国単位に駅路と郡境、駅家を入れた古代の国郡図をデジタルトレースし、地図ソフトを使用して、和同開珎出土遺跡 (775遺跡)の正確な分布図を完成させた。 次に和同開珎出土遺跡と駅路との関係が最も明瞭な北陸道を対象に、若狭、越前、加賀、能登、越中、越後6カ国の55遺跡(出土総数987点)の具体的な分析作業を進めた。その結果、和同開珎出土遺跡が北陸道に沿って分布する傾向が明瞭となった。遺跡の種別は駅家推定地をはじめ官衙関連遺跡や荘園遺跡、祭祀遺跡、寺院跡、港津遺跡などで、一般集落遺跡からの出土はほとんど見られない。出土状況を見ると、自然流路や運河、溝から出土し祓に使用されたとみられる銭貨や、地鎮などの建築儀礼で埋納された銭貨が多数を占め、京畿内の出土状況と大差のないことが判明した。これらのことから、駅路沿いに銭貨を交換手段とする交易が展開した可能性が浮上した。その背景として、調庸運脚や役夫の帰郷時の飢弊を救済するために、彼らに軽便な銭貨を所持させ、旅の途次に随時食糧を購入できるシステムの整備を図ろうとした和銅初年の律令国家の銭貨政策と密接に関わる現象と考えられるようになった。このように和同開珎出土遺跡の分布から、畿外の銭貨流通が都と地方を結ぶ駅路沿いに展開した状況が明らかになったことの意義は大きい。 また、和同開珎出土遺跡(775遺跡)のデータベースの作成に向けて、データベースの設計、データ入力と付図の作成作業を進め、平成28年3月に奈良文化財研究所のHP上での公開を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
旧国単位に作成していた和同開珎出土遺跡分布図が完成するなど、研究はおおむね順調に進んでいる。Web上での和同開珎出土遺跡データベースの公開も実現できた。 しかし、平成27年度に完成を目指した畿内七道の広域分布図の作成は、利用可能な歴史地図の精度と情報が古く、数種の地図の照合作業に手間取っており、次年度以降も作業を継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
全体計画に特段の変更は認められない。和同開珎出土遺跡を在地の歴史的環境下で分析、評価するためには、国・郡衙や官衙関連遺跡、古代寺院に関する情報の収集が不可欠であるが、予想以上に情報量が膨大なため、アルバイトを雇用して資料の収集、整理作業を計画的、継続的に進めたい。 研究のもう一方の柱である和同開珎の生産技術の復元に関する研究は、実物に即した研究が遅延しているが、和同開珎出土遺跡の分析と分布図の作成が一段落する平成29年度以降に集中的に取り組みたいと考えている。
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