研究課題/領域番号 |
15H03283
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
安井 眞奈美 天理大学, 文学部, 教授 (40309513)
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研究分担者 |
木村 正 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90240845)
松岡 悦子 奈良女子大学, その他部局等, 教授 (10183948)
遠藤 誠之 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30644794)
鳥巣 佳子 天理大学, 人間学部, 准教授 (80461086)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 妊娠・出産 / 産後ケア / 産科医療 / グリーフケア / 流産・死産 / 医療援助 / 文化人類学 / 民俗学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、地域基幹病院や開業助産所など多様な産む場所でのフィールドワークに基づいて、女性と子どもの暮らしを第一に考えた、妊娠・出産・産後ケアの支援ネットワークの構築とその実践にある。そのため初年度は、現状を把握すべく、地域基幹病院やクリニック、開業助産所にてフィールドワークを実施した。産科医、看護師、助産師、ソーシャルワーカーの方々に個別に聞き取りを行い、おもに職場の現状や、現在の産科医療が抱えている問題、働き方の実態、やりがいのある業務などについてお伺いした。聞き取りについては2016年度も続けていく。 また、産科医療の現状について、地域基幹病院の産科病棟の一日を見学した。それとともに、助産所の見学として、フィリピン・スービックで貧しい人々のために無料診療所を開いて、助産業務のほか、医療援助を行っている冨田江里子氏をたずね、現地でのお産の様子、医療援助の在り方を学んだ。安井眞奈美(代表者)、産科医・遠藤誠之氏(分担者)、助産師・梶間敦子氏(研究協力者)、医療人類学者・中本剛二氏(研究協力者)の4人で訪れ、それぞれの立場からお産を見学し、意見交換を行った。その後、冨田氏を含めて有意義な議論を行うことができた。 さらに研究成果を、学会および医療従事者を対象としたシンポジウム、一般の方々を対象としたフォーラムなどの場で発表を行った。安井は学会やシンポジウムのほか、開業助産所、また医療従事者を対象とした大阪母性衛生学会学術集会・研究会にて、産後ケアの在り方について発表した。とくに大阪母性衛生学会は、会長で科研分担者の木村正氏がコーディネートを行い実現し、多くの助産師・看護師、また看護学生たちの前で講演を行った。安井はその他、韓国、ハンガリーに招聘されて研究発表を行い、現地の産科医療について学んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、地域基幹病院や開業助産所での聞き取りを進めていくことを初年度の計画としていた。しかし聞き取りを進めていく中で、産後ケアのあり方について医療従事者の方々からさまざまな情報を提供していただき、研究発表の機会にも恵まれ、予想以上に研究を進めることができた。 また一方的に情報を得るだけではなく、イギリスから助産学生を受け入れて、日本の開業助産所を訪れ、イギリスと日本の産科医療の在り方についてディスカッションするなど、国際的な情報交換も可能となった。 当初の計画では、初年度は「妊娠・出産・産後ケアの支援ネットワークの構築」という課題を日本においてどのように実施するかという点のみに集中していたが、調査研究を続ける中で、海外との比較、海外の産科医療の在り方から、もう一度日本の産科医療を問い直す、という視点を得ることができたのは、予想外の成果であった。 たとえば安井眞奈美は、研究発表に招聘された韓国、ハンガリー、また学会発表に訪れた中国にて、各地の産科医療と助産所、産後ケアの在り方について情報を収集することができた。また安井が調査研究を進めてきたパラオ共和国においても、近年の産後ケアの情報を収集することができた。また分担者の松岡悦子氏と安井は、中国、台湾、北朝鮮、日本における出産・産後ケアの在り方についてパネルを組み、AJJの学会にて英語で発表を行ったのはきわめて有意義であった。日本での研究成果を踏まえて、東アジア地域との比較、さらにそれを欧米圏の研究者を交えてディスカッションできたことは、今後の研究の展開を考えるうえでも貴重な機会であった。 これらの成果を踏まえて、2016年度は産科医療におけるグリーフケアの実践というトピックに少しシフトさせて研究を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は、初年度に引き続き、地域基幹病院でのフィールドワークを実施する。すでに大阪府、奈良県を中心にいくつかの地域基幹病院で、産科医、看護師、助産師、ソーシャルワーカーの方々に聞き取りを実施してきた。そこから明らかになってきたことの一つに、女性産科医の働き方、とくに仕事と出産・育児の両立が難しく離職する女性産科医が少なくないという点が挙げられる。そこで2016年度は、女性産科医の協力を得てアンケートを実施し、働き方の実態と離職を防ぐための望ましい方法を模索していく。またこれと並行させて、女性の職業であり、仕事と出産・育児を両立させてきた助産師の働き方についてもアンケートを実施する。 また産科における医療援助のあり方について、フィリピン・スービックで無料診療所を開いて医療援助を行っている助産師・冨田江里子氏をお招きし、これからの医療援助の在り方を学んでいく。大阪大学医学部産婦人科にて講演会を開催し、医学部学生、院生を中心に、ともに学んでいく機会を設ける。 なお、2016年度の主たる企画として、家族を失った悲しみにどのように対峙するのか、とくに産科医療におけるグリーフケアを念頭においた、一般の人々にむけての一連のシンポジウムを開催する。基調講演に、オーストラリアのジャーナリストであるヘレン・ブラウン氏を招き、仙台、東京、天理の3か所で、それぞれサブテーマを決めて順番にシンポジウムを開催する。仙台、東京での成果をもとに、最後に天理大学にて科研分担者の方々にパネラーをお願いし、議論を行う。一連のシンポジウムの研究成果は、ただちに原稿化して、広く一般の人々にも読んでもらえるよう、出版にむけての編集作業を行う。 科研分担者、科研協力者の皆さんとは研究会を開催し、こまめに進捗状況を確認しながら研究を進めていく。
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備考 |
分担者の木村正氏は、会長として第54回大阪母性衛生学会(平成27年12月13日開催)を主催し、研究代表者である安井眞奈美に講演を依頼。木村氏は、学会全体のコメンテーターを務めた。 http://square.umin.ac.jp/osakabosei/pdf/54_shukai.pdf
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