研究課題/領域番号 |
15H03302
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森際 康友 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (40107488)
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研究分担者 |
長谷部 恭男 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80126143)
須網 隆夫 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80262418)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 弁護士倫理 / 内部通報窓口 / 社会正義 / 公益配慮義務 / 信認関係 / 忠実義務 / 法教育 / 組織内弁護士 |
研究実績の概要 |
法曹の職業倫理のあるべき姿を、それぞれ法曹・法曹の自治組織・司法制度利用者の3者の立場から3元的に考察、専門職としての当為を実態的かつ総合的に解明するアプローチ。法曹倫理が社会正義実現のためによりよく機能するには既存の倫理実践をどう改善すればよいのか。規範の内容と運用方法の双方を視野に入れて構想する。 弁護士倫理の場合、弁護士・依頼者関係に焦点を当ててその職業倫理を考察する伝統的視座だけでなく、第2に、弁護士会という専門職自治組織がその懲戒権限を越えてどこまで個々の弁護士を指導監督でき、また、すべきか、とい観点からも考察。社会正義の実現には、第3に、司法サービスの利用者が制度利用能力を高め、弁護士の正義実現能力に対する要望をレベルアップする、という課題がある。初等中等教育における法教育が始まったが、このような制度が依頼者の能力をいかに高めうるかを探究。 初年度のH27年度には、連携研究団体である「弁護士会の指導監督」研究会の研究協力者の支援を得て、職域拡大時代における弁護士の「本懐」を探究した。その本懐とは、「私たち弁護士」の本懐であって、「私という弁護士」のものではない。したがって、その専門職倫理は、弁護士個人ではなく、弁護士会の一員としての弁護士を主体に考察することになる。この観点から7月末にワシントンDCで開催された法哲学社会哲学国際学会連合(IVR)世界会議で報告。また、次回大会の組織者でもあるトルコのG・ウイグル教授とは、トルコで開催される次回大会までの共同研究の打合せを行った。 帰国後に北京を訪れ、中国人民大学法学院で教鞭をとり、さらに、上海交通大学、江蘇大学で招待講演を行うなど、法曹倫理研究の最新成果を広め、中国における法の支配、司法的正義の苗床作成に加わった。年度末には東京大学で27年度の到達点を示す国際シンポジウム「弁護士の本懐」を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 依頼者・弁護士関係については、その関係の本質論を開始、それを信認関係とするコモンロー諸国、あくまでも(準)委任など契約関係とする大陸法諸国それぞれにおける先行研究を批判的に摂取、どこでも通用する理論構築を開始。今年度は、依頼者の最善利益の実現という弁護士の責務と弁護士の公益実現義務との相克・調整という切り口からこの問題に取り組み、その成果を年度末の第7回国際シンポジウム東京(ILEST7)で報告した。 2 弁護士会の法曹倫理的当為については、組織内弁護士を組織外の弁護士と比べてどのように遇するべきか、が問われる弁護士職務基本規程50,51条の研究を行った昨年度の成果を踏まえ、唯一、職域拡大が成功しているこの分野の発展を展望しつつ、企業社会の文脈における弁護士の責務について弁護士会の観点から考察、上記シンポジウムで報告した 3 制度利用者をめぐる弁護士倫理については、初等中等教育における法教育について現状報告を受けた。接遇困難依頼者への対応などについては、未対応。
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今後の研究の推進方策 |
1 H28年度における依頼者・弁護士関係の本質研究については、H27年度末のILEST7の成果を踏まえ、H28年7月開催のILEC7(第7回国際法曹倫理会議)でミニシンポを開催し、わが国の他、米加における国際的共同研究の成果を報告する。そこでの成果を年度末のILEST8で活用する。 また、弁護士の誠実義務と公益配慮義務との関係については、顧問弁護士が公益通報者保護法における内部通報窓口を引き受けることの是非、また、引き受ける場合の注意点に絞っての検討を、年度初めの4月に同志社大学で開催された臨床法学教育学会の法曹倫理部会でミニシンポを組み、報告した。 2 弁護士会の職業倫理的当為に関しては、この成果を踏まえ、顧問弁護士ではなく、組織内弁護士が窓口を引き受けることについて検討を行う。また、弁護士会として、いわゆる報酬問題についてどう取り組むべきか、これまでの実践を総括しつつ、報酬論の理論的基礎の検討、弁護士会の規制権限、そこから出てくる将来の内規や申し合わせ等の規範作りとその運用について提言をまとめ、年度末のILEST8で報告する。報酬問題については、愛知法曹倫理研究会での研究や、関西地区の弁護士有志による共同研究とも連携して進める。 3 司法制度利用者から見たよりよい弁護士の倫理については、利用者における弁護士評価力を養成する法教育の構想を立て、法教育の振興に従事する関係者と協力しつつ、法教育の具体的シラバスの開発等に務める。また、困難依頼者への対応については、接遇する弁護士の眼差しからだけでなく、依頼者の立場から問題を考察して解決策を考案する。
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