研究課題/領域番号 |
15H03302
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
森際 康友 明治大学, 法学部, 特任教授 (40107488)
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研究分担者 |
松本 恒雄 独立行政法人国民生活センター(商品テスト部、教育研修部), 国民生活センター, 理事長 (20127715)
長谷部 恭男 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80126143)
須網 隆夫 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80262418)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 弁護士倫理 / 社会正義 / 信認関係 / 弁護士会の専門職責務 / 弁護士紹介 / マネーロンダリング / FATF / 腐敗汚職 |
研究実績の概要 |
本年度は,弁護士の依頼者に対する誠実義務を,コモンローの「信認義務」概念を持たぬ大陸法の枠組みで十全に説明できるのかを問うた。日弁連の関連委員会と連携しつつ弁護士倫理の基本を問う研究会や北米の研究協力者とともに,比較に基づいた理論化を目指した国際共同研究を進め,その中間報告を7月にニューヨークのフォーダム大学ロースクールで開催されたILEC7(7th International Legal Ethics Conference)で行った。 また,4月には,臨床法学教育学会法曹倫理部会でパネルを組み,弁護士による内部通報制度窓口受任をめぐる諸問題を論じた。 8月から9月にかけ,研究代表者が北京の中国人民大学法学院等で弁護士倫理の講義や講演を通して研究成果を教育や研修の場に届け,中国における法の支配,司法的正義の苗床育成に貢献した。帰国した10月以降,上記研究会と協力しつつその総括を行い,12月にワシントンDCの世界銀行における「法・正義・開発」週間の関連会議で研究の成果の一端を報告した。 年度末には,ILEST17(法曹倫理国際シンポジウム東京2017)を上記研究会とともに東京大学で開催,年度を通じて月例で進めてきた東京と名古屋における研究協力者と連携した研究会活動の成果を報告。「弁護士会の専門職責務」と題したシンポは,マネーロンダリングに対するカナダやヨーロッパの弁護士会の対応について報告を受け,わが国における規制と対比した。また,弁護士会による弁護士紹介という弁護士に対する便益提供制度についても国際的に考察。以上を踏まえて,弁護士会が会員弁護士に対していかなる規制やサービスをいかなる根拠に基づいて行うべきかについて具体例を用いて理論的に詰めた。 さらに,2011および12年のシンポジウム成果を『職域拡大時代の法曹倫理』として刊行。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
この研究は,法曹の職業倫理のあるべき姿を,法曹・法曹の自治組織・司法制度利用者の3者の立場から3元的に考察,法曹の専門職としての当為を実態的かつ総合的に解明し,法曹倫理が社会正義の実現にどうすればよりよく機能しうるのか,規範秩序とその運用方法を構想することを目的とする。 弁護士倫理の場合,従来の,弁護士・依頼者関係に焦点を当ててその職業倫理を考察する視座だけでなく,弁護士会という専門職自治組織がその懲戒権限を越えてどこまで個々の弁護士を指導監督でき,また,すべきか,という観点からも弁護士倫理のあり方を考察する。弁護士の依頼者に対する誠実義務の履行,その支援者としての弁護士会の責務,具体的問題におけるそれぞれの任務,任務執行における制約等,これまで独立に考察してきた諸問題を,3元的考察によって統合的に考察する視座が見えてきた。本年までに依頼者と弁護士,弁護士と弁護士会について考察,来年度はこれらの成果を踏まえて研究を深め,国内外で成果発表すると同時に,弁護士会と依頼者の関係に焦点を当てた研究を開始する。 また,現在進行している弁護士職務基本規程改正作業に留意しつつ,先端的諸問題に連携研究会と歩調を合わせて研究を進め,教科書の新版編集に活用する。このような,研究計画にはなかった作業をも進めることができるところまで来ているので,当初の計画以上に研究が進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1 H29年度における依頼者・弁護士関係の本質研究については,H28年7月開催のILEC7(第7回国際法曹倫理会議)で組んだパネルの国際共同研究成果を活用,連携研究者による論文発表と6月にメキシコシティで開催のLaw&Society国際会議,および7月にリスボンで開催のIVR(法哲学社会哲学国際学会連合)世界会議での報告と研究打合せの予定。なお,依頼者・弁護士関係をめぐる多様な問題については,愛知法曹倫理研究会,関西地区で組織した弁護士有志による研究会とも連携して進める。 2 弁護士会の職業倫理的当為に関しては,H28年度末のILEST17(法曹倫理国際シンポジウム東京2017)「弁護士会の専門職責務」で明らかにしたマネーロンダリング対策と弁護士会の責務,および弁護士紹介の是非の連携研究会における共同研究成果を踏まえ,弁護士会のもつ指導監督権限の具体的適用とその理論的根拠を引き続き探究する。また,弁護士会に対する,また,弁護士会による規制とその執行体制に関しては,マネーロンダリング対策と弁護士会の責務について,12月にFordham Law Schoolでの国際シンポジウムで口頭発表を行う。さらに,東京および名古屋の研究協力組織と連携し,年度を通じて月例の研究会で弁護士職務基本規程の改正のための諸問題の検討を行う。弁護士の法学者・社外取締役等の兼併,組織内弁護士に関する規定等の検討を行い,恒例化した年度末のILEST18で成果発表する。 3 よりよい司法制度利用者の養成については,H29年4月明治大学で開催の臨床法学教育学会法曹倫理部会におけるパネル「法曹倫理教育における法哲学の役割」の成果(同学会誌『法曹養成と臨床教育』10号掲載予定)を活用する。 4 上掲の各種協力組織と連携し,成果発信の柱として,法科大学院・各種研究会用のテクスト『法曹の倫理』の第3版企画を本格化する。
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