研究課題/領域番号 |
15H03312
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
堤 英敬 香川大学, 法学部, 教授 (20314908)
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研究分担者 |
上神 貴佳 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (30376628)
稲増 一憲 関西学院大学, 社会学部, 准教授 (10582041)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 投票支援アプリケーション / 実験政治学 / 情報コスト / 政党脱編成 |
研究実績の概要 |
本研究は、有権者と政党の関係が希薄化した政党脱編成期において、両者の関係を再構築する役割を担うと期待される投票支援アプリケーション(VAA)の効果を検証し、その可能性と課題を探ることを目的としている。平成28年度には、VAAの効果に関する2つのサーベイ実験を実施した。 第1に、7月に実施された参議院議員選挙において、VAAの利用に期待される効果を検証することを目的としたサーベイ実験を実施した。具体的な実験方法としては、クラウド・ソーシングで募集した本調査への協力者ならびに研究組織のメンバーが所属する大学の学生を対象として、ランダムに選ばれた人たちに参院選前にVAAを使用してもらい、VAAを使用しなかった人との間に(参院選後の調査で尋ねた)参院選での投票参加や、参院選前後における政治意識、情報接触パターンに差異が生じるかを確かめた。VAAを利用することで情報コストが軽減され、投票者が増えることや、新たな情報を得ることで、政治への関心や政治的有効性感覚が高まったり、政治情報の取得に積極的になったりすることを予測していたが、実験の結果は必ずしもこうした予測とは一致しないものであった。 第2に、VAAが利用者に対して政党の政策的立場に関する正確な情報を提供できる点に着目し、その効果を測定するサーベイ実験を行った。具体的には、調査会社のモニターを対象としたインターネット調査において、一般に認知度が低いと考えられる2つの政策争点における自民党、民進党の政策的立場をランダムに選ばれた調査回答者に提示し、それ以外の回答者との間に、政党に対する好意度や政治的有効性感覚、政治情報の取得の積極性に違いが見られるかを検証した。結果としては、政党の政策情報を示された人の方が若干ではあるが、むしろ政策情報の取得に消極的になるとの結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は実験的な手法を用いてVAAの効果を検証し、その可能性と課題を探ることを目的としており、平成28年度に実施したサーベイ実験は本研究において重要な位置を占めている。この実験は、外的妥当性を高めるために現実の選挙(平成28年7月執行の参院選)に際して、実際に広く利用されているVAAを題材として実施することを計画していたが、VAAの実施主体からの協力も得ながら、概ね計画通りに実施することができた。その点では、順調に研究を進展させることができたと考えている。 ただし、学生を対象とした実験においては、被験者数が予定をやや下回り、VAAを利用する処理群と利用しない統制群の同質性が必ずしも保たれないという問題が生じた。また、実験結果は、研究の計画段階で予測していた効果は調査対象者全体で見た場合、さほど大きいとはいえないというものであった。そのため、当初想定していたより詳細な分析を行う必要が生じている。これに関しては、VAAが政党の政策的立場に関する正確な情報を提供できる点に着目し、その効果を検証するサーベイ実験を新たに計画して実施するという対応もとったが、総合的に判断すると、現段階では踏み込んだ分析を十分に進めることはできていない。今後、研究のペースを速めていく必要があると認識している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、第1に平成28年度に実施したサーベイ実験の詳細な分析を進める予定である。現段階では、平均的に見た場合、VAAの利用が投票参加や政治関心の向上、政治情報の取得などに対して有意な効果を持つことは確認できていないが、VAAを利用することの効果は一律に生じるとは考えにくいことから、どのような人にVAAの効果が生じうるのか分析を進めていく。同様に、政党の政策情報を与えられることによる効果についても、実験結果の詳細な検討を行い、今年度中には成果を報告したいと考えている。 第2に、平成29年度においては、VAAの利用をきっかけとした議論がもたらす効果に関する研究を行っていく予定である。VAAは利用者と政党の政策的立場のマッチングを行うことで、投票の動機付けになったり政治的関与を高めたりすることが期待される。他方で、政治的な熟慮や熟議を重視する立場からすれば、VAAを通じて判明した自身の選好に近似する政党に投票するだけでは不十分だとの批判がありうるし、VAAは使用する政策争点によって結果が左右されることが避けられないという技術的問題がある。そこで本研究においては、政治的な議論を行うことが「不安定な」VAAの判定結果の効果を「仲裁」する機能を持ちうるのか、また、VAAの利用が政治的な議論の有効性を高めるのかを検討する予定である。具体的には、VAAの利用の有無と議論の実施の有無によって4つのグループを設定し、各グループごとに投票意向や政治意識に違いがもたらされるのか、議論の内容にも注目しながら、実験室実験の手法を用いて検証していく。
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