2019年度は前年度の中心的課題(経済主体同士の投資時期決定ゲームの定式化,スピルオーバー効果の影響の分析)について,詳細を詰めるとともに,より根本的な疑問点に取り組んだ.それは,なぜ社会にとって良い(と思われる)技術の導入がなかなか進まない(という事例がしばしば見られる)のか,というものである.上記スピルオーバー効果はその要因の一つであることは間違いないが,これはプラスにもマイナスにも働き得る.そこでこの効果を取り去って,より単純に考えた場合,良い技術(生産性の向上に資する技術,省エネルギーに資する技術等)はコストだけが阻害要因であり,コストダウンさえ進めば自然的に導入が進むものと想像される.ところが現実はそのような例ばかりではない. 2019年度は,上記の問題意識のもとで,投資論でもなく,内生的技術変化の議論でもなく,参入障壁等市場の不完全性の議論でもなく,極めてシンプルに,技術進歩の阻害要因を説明するモデルを考察した.具体的には,モデルとして,シンプルな需給の部分均衡を考えた.供給曲線が右側に倒れていくことによって技術進歩を表現した.消費者余剰,供給者余剰,社会厚生といった基本的なツールを使って,比較静学分析により技術進歩のもたらす帰結を考察した.このモデルは,投資論でもなく,内生的技術変化の議論でもなく,参入障壁等市場の不完全性の議論でもなく,極めてシンプルに,技術進歩の阻害要因を説明するものである.モデル分析に加え,モデルの拡張性,特に通常の投資論では考慮されない環境・社会・ガバナンス(ESG)要因についても検討した.
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