研究課題/領域番号 |
15H03356
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
長峯 純一 関西学院大学, 総合政策学部, 教授 (80189159)
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研究分担者 |
亀田 啓悟 関西学院大学, 総合政策学部, 教授 (80286608)
巳波 弘佳 関西学院大学, 理工学部, 教授 (40351738)
西立野 修平 関西学院大学, 総合政策学部, 講師 (20734007)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 公共投資 / 復興事業 / 雇用政策 / 復興政策 / クラウディングアウト効果 / 地域経済 |
研究実績の概要 |
本研究の内容は、東北被災地で進行中の復興事業(公共投資)が民間地場産業の雇用や投資をクラウドアウトしているのでは、という問題意識から、(1)ハローワークで公表されている求人情報を活用したビッグデータ分析、(2)公共事業や雇用関係の地域別・産業別データを用いた伝統的統計手法、(3)求人情報に求職情報も加えたマッチング手法(GSアルゴリズム)の3手法を用い、並行して東北被災地での地場産業の復興状況をヒアリングやアンケートによる調査で補完的に情報を収集しながら、以下の4つの課題、すなわち (a)公共投資が民間雇用へ与える影響、(b)公共投資が民間投資に与える影響、(c)効率的な求人・求職のマッチングの検討、(d)被災地の公共投資が地場産業である民間雇用・民間投資を阻害しない形での復興政策への示唆、に応えていくことである。 2015年度は、(i)ビッグデータである求人票データベースと産業別・職業別の都道府県パネルデータを構築し、(ii)それぞれのデータを用いた上記(a)(b)のFirst Trialの実証分析を行い、(iii)求職票データベースの情報公開請求を開始し、(iv)分析のためのアルゴリズムを作成し、(v)被災地でのヒアリング調査およびアンケート調査準備を行うことを計画していた。 このうち、上記(i)の求人票データベースの構築はかなりの程度の作業を進め、それを基にサバイバル分析の手法を用いて、(ii)のFirst Trialの実証分析を終え、その結果をworking paperとしてまとめるところまで達成した。並行して、自然災害がもたらす経済的影響と復興事業の効果、公共投資が民間雇用および民間投資へ与える影響に関する先行研究をサーベイしつつ、被災地では終盤を迎えている復興事業の進め方と地域の雇用・産業との関係について、情報収集と問題点の整理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハローワークHPから公表されている求人票データはビッグデータであり、このデータ収集とデータベース構築だけでも相当の作業に及んでいる。そこで、東北の被災3県、すなわち岩手県・宮城県・福島県と、この3県との比較対象として類似の特徴(人口規模や産業構造)を持つ10県ほどをクラスター分析によって抽出し、それらの求人票のデータベースを作成してきた。 蓄積したデータを用いて、サバイバル分析によるFirst Trialの実証分析を重ねながら、データベースの作成方法、分析モデルの設計と改良を重ながら、実証作業を進めている。ここでの最初の分析結果について、working paperとしてまとめつつあり、2016年度にその成果を学会などで発表する準備を進めている。 求人票に加えて求職票の情報も得ることで、さらに求人・求職のマッチング分析へと展開を図る計画であるが、これについては個人情報の問題と関係することから、厚生労働省のデータ提供の協力が必要になる。しかしこれに関するデータ入手までには至らなかった。 被災地を逐次訪問し、復興事業の進捗状況を見ながら、地域の企業や経営者を対象にヒアリング調査を行い、雇用環境や復興事業の問題についての情報収集を行ってきた。より包括的な情報を集めるためにアンケート調査を行うことも計画してきたが、現時点でそうした調査を行うことは地元企業・経営者にとって負担となりそうなこと、また産業関係の復興事業が完了間際の微妙な段階にあり、その点でも調査協力を得ることが難しいだろうと判断し、アンケート調査に関してはもう少しタイミングを見計らうこととした。
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今後の研究の推進方策 |
求人データを用いたサバイバル分析では、公共投資関連と民間企業の求人が成立する要因や条件を分析しつつ、公共投資が地域別・産業別の民間雇用や賃金水準に与える影響についてworking paperにまとめつつある。これは最初の研究成果として、2016年6月30日、Western Economic Association International(Portland, US)で発表予定である。この分析手法は、ある程度軌道に乗ってきたことから、その後も蓄積しているデータベースを含めて分析を拡大し、2016年度はさらに大きなデータを用いた包括的な実証分析へと展開を図る予定である。 並行して、求職票については、厚生労働省から事前に協力を得られそうな感触を得ていることから、分析結果の活用方法を厚生労働省へアピールする手段として上記の求人票データによる論文(working paper)を用い、求職票データの提供協力を依頼していく予定である。 さらに、伝統的な公共投資に関するマクロ計量分析の手法を用いた実証分析にも取り掛かる計画である。公共投資・公的雇用、民間の投資・雇用の都道府県パネルデータを構築してきたが、このFirst Trialの実証分析を本格化する予定である。 被災地では2015年度末で復興事業の集中復興期間を一応終えた。復興公共事業自体は2013年度頃がピークと言われ、民間雇用のクラウドアウト効果と言える現象も当時指摘されていた。しかし現時点でも地場産業復活を実感できる状況にはなく、求人を出しても人が集まらないという情報をしばしば耳にする。遅延している産業団地の造成等の復興事業は今年度も進められていくが、地域の雇用や投資がどうなるかは先行き不明である。そうした現地情報も逐次収集し、実証分析モデルに考慮しながら、復興事業のあり方への政策的示唆を探っていく。
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