研究課題/領域番号 |
15H03359
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
持田 信樹 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (20157829)
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研究分担者 |
石田 三成 琉球大学, 法文学部, 准教授 (40571477)
林 正義 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (70318666)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 市場公募債 / 銀行等引受債 / 協議制 / 信用リスク |
研究実績の概要 |
第1に、地方債の経済分析に必要となるデータセットの整備をすすめた。具体的には、謝金を用いて研究補助者を雇い、都道府県および市町村を単位として1960年から直近までの地方財政データを整備した。本年度は債務残高、基礎的財政収支、債務償還年限、経常収支、対国債スプレッド、売買回転率などの基本的なデータを収集した。 第2に、地方債の経済分析に必要となる最新の理論モデルを再検討した。具体的には経済協力開発機構(OECD)に設けられた専門家グループが刊行を始めたFiscal Federalismシリーズやその他の専門書を購入して、それらに掲載されている学術論文を中心に検討して、わが国の地方債分析に役立つものを選択した。また国際財政学会(IIPF)に参加して、諸外国の研究者と地方債研究のあり方について議論を深めた。その結果、地方債の格付けやスプレッド分析の手法についての最新の知見を得ることができた。 第3に、昨(平成27)年度に実施したアンケート調査で得られた集計データを用いて、よりミクロレベルでの分析を試みた。とくに地方自治体と指定金融機関の関係性に近年、どのような変化が表れているのかが明らかになった。指定金融機関に指定されることのメリットがあると考えている機関がほとんどであるが、指定金融機関業務自体の収益性については、否定的に捉えている金融機関も多い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に、本年度の重点は概要にも述べたように地方債の経済分析に必要となるデータセットの整備であったが、情報端末からBloombergのデータを利用できたことが大きな成果であった。これにより、個別の地方債について発行条件や流通市場、対国債スプレッドなどのデータを長期にわたり大量に入手することができた。第2に、地方債の信用力は、発行団体ごとの財政状況によって規定される部分(単体としての信用力)と地方財政制度全体として地方債の償還確実性を担保する仕組み(システムサポート)によって規定される部分とに分けて考えることができることが、先行研究の整理によって判明した。後者による信用補完をどの程度強固なものとすべきかは、低廉で安定的な資金調達の確保と、発行体の財政状況に即した地方債スプレッドの形成を通じた市場による規律付けの確保のいずれをどの程度重視するかという政策判断に依存する形で決定されるが、最終年度にはこれらの点について精査する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、銀行等引受債の発行条件がどのように決まっているのかについてパネル推定を行う。従来の研究では主に大都市・府県が発行する市場公募債のみを対象にしてきた。しかし、市町村レベルでは相対交渉で発行される銀行等引受債が圧倒的に多い。本研究では、1)銀行等引受債を起債するにあたり、金融機関同士の競争環境が弱ければ、金融機関の交渉力が強まる結果、銀行等引受債の金利が上昇する、2)公的資金のウェイトが高い地域ほど、金融機関の寡占・独占の弊害が小さくなるため、銀行等引受債の金利が低下する、という2つの仮説をたてて、実証する。 第2に、研究成果の出版にむけた準備を行う。校正はつぎの通りである。序章 はじめに、1章 国の関与の変遷、2章 地方債市場の市場化、3章 地方債の保有構造、4章 地方債の信用力、5章 格付け取得の効果に関する分析、6章 地方政府債務の持続可能性、7章 地方債研究の展望、終章 むすび。2017年4月には執筆要綱の確定し、4-8月にかけて各章概要の報告と改訂を行う。企画書を作成し、7-8月に出版社に持ち込む。12月頃に助成金を申請し、2018年3月末に完成稿を提出する。
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