研究課題
本課題では、平成29年度は、主として移動体通信と車載エレクトロニクス(通信関連システム)について、以下の点を検討した。まず、昨年度までに整理した、(1) コンセンサス標準に関わる普及戦略や関連する知識の概念、ならびに(2)様々な企業における普及と収益化の戦略について、さらに概念を整理しながら、分析を進めた。具体的には、まず、標準の規格書や特許分類と関連する必須特許について、企業別に時系列的に検討し、複数の技術分類間にわたる特許のネットワークの変遷を、企業のシステム知識のレベルの変化として把握した。そのうえで、主要企業の知識の変化とともに、独自特許による必須特許の引用について、企業内外の引用関係のネットワークの変遷を検討することで、以下の点が明らかになった。まず、一部の企業の必須特許が集中的に引用されており、こうした企業からの他企業への技術のスピルオーバーによって実装に不可欠な重要技術の普及が促されてきたことが明らかとなった。また、こうした企業は、自社の事業の範囲を超えて関連する技術を獲得し、技術間にわたる密度の高いシステム知識を構築することで、自己強化的に知識を構築して専有しつつ、他社から引用されるような影響力のあるイノベーションを生み出していることが明らかとなった。これらをふまえて、(3)必須特許の引用を通じて、様々な企業による技術の製品化や事業展開が進み、エコシステムの形成がなされていく可能性を指摘した。コンセンサス標準によるスピルオーバーは、企業間での技術や知識の差を縮め、特定企業の優位を喪失させる。だが、幅広い技術を獲得して、密度の高いシステム知識を構築している企業は、技術のスピルオーバーを通じて、産業や技術の進歩を主導してコントロールすることができる。こうした企業によって、エコシステムの成立と発達は促されていると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
文献レビュー、調査・分析、実務家との意見交換を進めることにより、基本的な概念・枠組みの整理とデータ(公開資料、ヒアリング成果、量的データ)の蓄積・検討をさらに進めることができた。また、これらについて途中成果を国内外で発表・出版することもできた。一方、関連する公的な委員会・会合、実務家との会合・調整、学内・学会業務等に時間を要したことから、予定していたデータ分析、成果執筆 、海外ジャーナルを含む論文公刊に多少遅れが生じている。これらの点から、②とした。
今後は、先行研究やデータの整理、調査によるデータの確認・追加収集、データベースの分析をさらに進めることで、研究の展開とまとめを試みる。平成29年度までの企業による標準技術の普及戦略や収益化戦略についての成果をもとに、さらに企業による知識の構築とそれにもとづくビジネス・エコシステムの発達について分析と検討を進める。より具体的には、大規模で複雑化しているシステム(例えば情報通信システムやそれにもとづく交通システム)を中心に、主要企業による新たな技術の獲得とシステム知識の構築とともに、企業間にわたる技術の引用や共有のネットワークの発達について、時系列的により精緻な調査や分析を進める。複雑化しているシステムについては、企業は標準化にもとづく技術の引用や共有を進める必要がある。こうした状況では、主要企業が、いかに新しい技術を獲得しながら、幅広い技術をカバーするシステム知識を構築し、産業や技術の発達を左右するイノベーションを生み出しているのか、また多様な企業による標準技術の実装を促しているのかが、エコシステムの形成や発達に重要となってくると考えられる。こうした観点から、産業動向、政策的プログラム、ならびに制度的な枠組みを理解しながら、技術の引用や共有の企業間ネットワーク、主要企業の知識レベル、ならびにそうした企業の技術や知識の獲得モードとの関連について、時系列的、統計的に分析を進める。また、成果については、国内外で講演や書籍・記事の執筆による社会的発信を進めるとともに、学会・研究会での発表、海外の論文への投稿、そして成果を集約した書籍の企画を進める。また、昨年度に引き続き、海外で投稿中の論文の刊行を目指す。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 オープンアクセス 7件、 査読あり 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 図書 (2件)
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巻: 51(3) ページ: 未定
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巻: 未定 ページ: 未定
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巻: なし