研究課題/領域番号 |
15H03391
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研究機関 | 国立情報学研究所 |
研究代表者 |
岡田 仁志 国立情報学研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (10333543)
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研究分担者 |
稲葉 宏幸 京都工芸繊維大学, 情報工学・人間科学系, 教授 (40243117)
木下 宏揚 神奈川大学, 工学部, 教授 (70202041)
上杉 志朗 松山短期大学, 商科, 教授(移行) (70341279)
山崎 重一郎 近畿大学, 工学部, 教授 (80368373)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分散型仮想通貨 / Open Asset Protocol / Open Asset Ruby / Bitcoin / Blockchain |
研究実績の概要 |
本研究では、Open Asset Protocolの実装言語であるOpen Asset Rubyに依拠して、流通の状態を観測することを可能にする目的専用通貨を設計し、仮想通貨の上位レイヤに設定する。実験室環境において目的専用通貨を流通させ、被験者の回遊行動と購買行動を可視化する。これによって、通貨としての仮名性を保ちながら購買行動を分析することを可能にする。 Blockchain技術によって目的専用通貨を実装して流通させる実験を行うためには法制度が明確になっていることが前提となるが、資金決済法を改正する法案が2016年度に制定され、2017年4月に施行されることから、法の運用を経て法的位置づけが明確となるまでは、目的専用通貨としての運用に関する実験は見送ることとした。 カラードコインは購買行動に限らず、信頼性の高い投票システムとしても応用が可能であるから、仮想通貨以外の用途についても研究の対象に加えた。Open Asset Protocolによって投票システムを構築し、実際にプログラムコンテストにおける優秀作の選定などに利用できるかを試験して、正常に作動することを確認した。電子投票においては、コンドルセ法などの応用的な投票方式を実現することが利点とされるが、構築した投票システムではコンドルセ法を実装し、かつ集計過程を透明化することに成功した。 Blockchain技術の普及においては、国際標準化の議論が不可欠となるところ、新たにISO TC 307が設置されて標準化に関する議論が開始されたことから、研究代表者の岡田と研究分担者の山崎が国内委員会に参加し、技術と制度の標準化に関する議論に加わった。 研究成果の社会還元として、研究代表者が情報処理学会の連続セミナーをコーディネイトし、ブロックチェインの理解と応用に関して、研究分担者の木下、上杉、山崎の3氏が登壇した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに、Open Asset Protocolを利用したブロックチェーンを構築し、実験室環境において目的専用通貨を仮想的に流通させることに成功している。さらに、Open Asset Protocolの応用は通貨的価値に限定されないことに着目して、投票システムへの応用についても研究を開始し、すでに概念的な実装に成功している。 一方で、Open Asset Protocolの実装によって目的専用通貨を流通させる実験にあたっては、法的な性質の明確化が必要となるところ、改正された資金決済法が2018年4月に施行されて、具体的な法解釈と法令・条例等の整備がこれから始まる段階であることから、これらの実験は来年度以降に実施することが適切であると判断した。 これまでの検討で、ブロックチェーンの中心を持たない性質は、特定の主体に信頼点を置かない投票システムの構築に適していることが示唆された。すでに、Open Asset Protoclを用いた投票システムを構築し、システム上における投票用紙の送付、投票意思の送付、および投票結果の集計をブロックチェーン上で可能にするシステムを実装することに成功した。ブロックチェーン技術を投票システムに応用する実験は、ブロックチェーン技術の応用範囲が仮想通貨としての利用にとどまらないことを示すものであり、今後の応用分野として高い可能性を有することが確認された。 ブロックチェーン技術はさまざまな分野への応用が検討されており、世界的にみても経済活動のあらゆる場面での実装が進んでいる。これまでの研究から得られた知見をもとに、ブロックチェーン技術の標準化に関する議論にも参加することが必要であると理解した。このため、新たに設置されたISO TC 307の国内委員会および国際の場における議論に参加して、研究で得られた知見を標準化に向けた活動に対して提供することとした。
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今後の研究の推進方策 |
Open Asset Protocolを利用したブロックチェーンの構築と、ブロックチェーン上における目的専用通貨の実装までの過程を完了しており、実験室環境において正常に流通することを確認している。ブロックチェーンの代表的な応用例である目的専用通貨としての流通実験に関しては一定のレベルまでの検証を完了しているため、今後はブロックチェーンの非中心性および不可逆性という性質を最大限に活かすべく、投票システムの構築と運用に重点を置く。 価値交換システムにおけるゲーム理論的解析に着目し、異なる価値観を持つ二者間の価値交換システムについての検討を進展させた。これまで提案されてきた異なる価値観を持つ二者間の価値交換システムでは,各ユーザが満足する効用が得られるかどうかは未解決であり、ゲーム理論を用いて特定の条件下でn人の各ユーザにおける効用が満足するようなモデルを検討する。 ブロックチェーンの構造を解析し、使用されている暗号技術の強度について問題点の有無を検証する。また、ブロックチェーンを著作権管理に応用する可能性について、これまでの研究室における技術提案と連動させて研究を進展させる。 国際金融論の見地から、仮想通貨を自家発行することの金融論的な課題について検証する。ブロックチェーンに関しては、国際標準化の活動が開始しており、仮想通貨を中央銀行または市中銀行が発行する場合の問題点についても考察を行う。 これらの研究を統合し、Open Asset Protocolによって実装された目的専用通貨の実験室環境における流通の可視化、仮想的な購買行動と連動した投票システムの実装による評判形成システムの検証を行う。これらと並行して、地域において電子的な通貨価値を流通させることの法的な問題点、金融論に及ぼす影響、および、地域コミュニティの価値観の形成に及ぼす影響についての考察に着手する。
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