研究課題/領域番号 |
15H03401
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
伊藤 嘉博 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (10168388)
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研究分担者 |
山本 浩二 大阪府立大学, 経済学部, 教授 (20166797)
小林 啓孝 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (40062187)
目時 壮浩 武蔵大学, 経済学部, 准教授 (90548851)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サービス・リエンジニアリング / サービス・サプライチェーン |
研究実績の概要 |
過去数年間に渡って、われわれ研究グループはサービス産業における戦略マネジメントシステムの変革(サービス・リエンジニアリング)に関する研究に取り組んできた。本研究は、これをわが国の観光産業、とりわけホテル・旅館等の宿泊産業をターゲットに、当該産業が海外からの集客力を高め、収益性の劇的な改善を図るために不可欠となる優れたインバウンド戦略の立案とその実現を支援する会計システムに関する、具体的かつ操作性に優れた方法論の探究に応用することを目的として企画された。初年度は主に宿泊産業の低収益構造の原因解明のためのフィールドリサーチと、前述のシステムのベースとなるモデルの構築に全力をあげてきた。その結果、後者のモデルそのもののはぼぼ構築することができ、その妥当性の検証を目指すアクションリサーチを待つ段階にこぎつけることができた。 他方で、本研究は宿泊業とその周辺産業の有機的なコラボレーションの在り方を探究することも目的の一つとしてきた。すなわち、宿泊業のみの努力によって海外からの観光客を多数呼び込めるわけではない。換言すれば、運輸産業や飲食産業をはじめとする他の関連産業との有機的なコラボレーションが組織されてはじめて、それは可能となる。それゆえ、本研究ではこうしたコラボレーション(ツーリズム・サプライチェーン)のあり方についても検討を行い、そのためのガイドラインを提示するすることも視野においている。残念ながら、初年度においては、前述のモデル構築にフォーカスをおいたことから、後者の目的に資する研究活動には十分な時間を割くことができなかった。そこで、28年度はこの点を埋めるためのリサーチを重視する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の活動は、宿泊産業の低収益構造の原因解明および改善に向けた課題の明確化を目的としたフィールドリサーチと、宿泊産業が海外からの集客力を高め、収益性の劇的な改善につながる優れたインバウンド戦略の立案とその実現を支援する会計システムの核となるモデルの構築を、研究の2つの柱として計画された。もっとも、後者のモデルそのものは28年度中の完成を予定していたものの、初年度中にほぼ完成にこぎつけることができた。くわえて、モデルの有効性の検証と革新を目的とするアクション・リサーチの協力サイトも見つかり、すでに実行の段階に入っている。 また、モデルの完成度についての意見聴取を兼ねて、初年度の研究成果を公表するためのフォーラムを日本管理会計研究学会において企画し、28年度はじめ(4月)に開催することができた。このことから、本研究はわれわれの想定を超えたスピードで進行中であるが、その一方で、研究の企画段階では予想していなかった円安傾向によりインバウンド顧客が急増し、戦略的な対応をなんら講ずるまでもなく、宿泊業の業績は向上している。その結果、当該産業の構造的な問題点が見えにくくなっていると研究メンバー一同痛感しており、この点が研究上の大きな懸念要素となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の活動は、主に(1)初年度に構築した宿泊業のインバウンド戦略の立案およびその実現を支援するツールとなるモデルの妥当性の検証・革新を目的とするアクションリサーチと、(2)宿泊業とその周辺産業の有機的なコラボレーションの在り方の探究を、研究の2つの柱と設定している。(1)については、すでに山口県のビジネスホテルの協力のもと、実施段階に入っているが、他の協力サイトの発見にも注力していきたいと考えている。この点に鑑みて付言するなら、われわれが企図するサポートツールは主に管理会計的な手段をベースとしている。しかしながら、それだけで宿泊業の戦略マネジメントシステムとしての必要十分条件が満たされるわけではない。サービスの多くは人を介して提供されるものであり、戦略の策定もその戦略を実現に導くための活動もすべては組織構成員の努力と力量に委ねられている。それゆえ、適切な教育と訓練が不可欠となる。本研究では、前述のモデルの妥当性の検証とともに、人事管理のあり方についても検討を加える予定である。また、集客効果をあげるためには、的確なマーケティング施策と連携を持つことが必須となる。この点もアクションリサーチにおける重要な検討課題となろう。というのも、たとえば予算制約を理由に効果的なサービスコンテンツに十分な経営資源が振り向けなれずに戦略そのものが頓挫するといったケースが、わが国の宿泊業では非常に多いことがフィールドリサーチを通じて確認されたからである。 次に(2)に関しては、宿泊業と並んで観光産業を構成するさまざまな媒体、すなわち航空、鉄道などの輸送産業、旅行業および飲食業にも随時検討の視野を広げ、有機的なツーリズム・サプライチェーンの構築に向けたガイドラインの設計を目指したいと考えており、国内の事例研究はもとより、先行する欧州の事例等を参考にするため、海外調査も積極的に行っていく所存である。
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