研究課題/領域番号 |
15H03422
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
花田 昌宜 (花田昌宣) 熊本学園大学, 社会福祉学部, 教授 (30271456)
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研究分担者 |
下地 明友 熊本学園大学, 社会福祉学部, 教授 (90128281)
中地 重晴 熊本学園大学, 社会福祉学部, 教授 (50586849)
宮北 隆志 熊本学園大学, 社会福祉学部, 教授 (50112404)
丸山 公男 新潟青陵大学, 社会福祉学部, 教授 (30440465)
尾崎 寛直 東京経済大学, 経済学部, 准教授 (20385131)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水俣学 / 健康被害 / 公害 / 水俣病 / 社会的評価 |
研究実績の概要 |
本研究の出発点は、水俣病の発生の公式確認後60年近くが経過している今日においてなぜ水俣病問題の解決が実現できていないのか、なにが求められているのかを水俣学の方法を援用して明らかにし、将来への展望を示す根本的な解決ヘの道筋を提示することにある。本研究計画の第二年目は熊本の水俣病発生公式確認60年を迎える。そうした時間の経過と経験の蓄積、そして被害者たちの軌跡が、将来に何をもたらすのか、明確にかつ具体的に論じる時が来ている。 そのような問題意識に立ち、第一年度は[医療と健康被害調査班][自然生態系と地域環境班][社会影響・経済分析班]の三つサブ研究班を構成し、研究代表の総括のもと、研究計画に従って調査研究を実施した。 [医療と健康被害調査班]では、社会の中に埋め込まれた公害による疾病、水俣病の総合的検討を課題に、病像にかかる調査研究および研究会を行い、現在の問題に関する認識を共有するとともに、水俣病にかかる人権と差別の理論的・実証的研究の必要性を確認し、研究報告を行った。[自然生態系と地域環境班]では、水俣湾特に袋湾における自然生態系研究(海辺の生物調査)を実施中であるが、生活環境の土壌などの重金属汚染の状況の測定については延期、一年目の成果としては、国際水銀規制と水銀汚染サイトとしての水俣についての研究発表を行った。[社会影響・経済分析班]では、資料収集と住民インタビューを行った。また、水俣病発生公式確認60年に鑑み、2、3月に水俣病患者・被害者団体に協力を求め、約8千5百名を対象とした被害意識調査を実施し、有効回収数2585通の回答を得ることができた。水俣病研究史の中で被害住民をアンケートは初めてのものであり、回収データの転記・入力作業を終えることができた。 これら三班の調査研究の総合的検討と成果発表は本年度以降に実施される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画に示した[医療と健康被害調査班]における文献サーベイや健康調査は計画通り進めることができた。[社会影響・経済分析班]におけるヒアリングや資料調査など地域社会調査は順調に進捗しており、くわえて、2016年2―3月にかけて、水俣病被害者団体うち7団体の会員約1万名を対象とした被害意識調査を実施することができた。回収率が約30%であったが、単純集計を行った。今後、詳細な統計的な分析を加えていくこととしている。 なお、「やや遅れている」とした理由は、[自然生態系と地域環境班]が水俣湾及び八幡残渣プール周辺の自然生態調査および重金属汚染に着目した環境調査に着手するとした計画部分に関わる。平成27年2月に本研究に関する地元の研究協力団体(みなまた地域研究会)が水俣湾岸の私有地の土壌分析調査を行ったところ、きわめて高濃度の水銀汚染が検出され、地元で大きく報道されるとともに、地域での反響が大きかった。平成27年4月、本研究計画が採択された後、水銀汚染が予想されている土壌採取予定地区の地権者らに説明を行ったところ、「風評被害」への懸念から協力に困難が生じた。そこで平成27年8月の調査にあたって予定していたサンプル採取をいったん断念した。今年度に改めて協力要請を実施することとした。この調査は生活環境の土壌汚染としてわれわれの研究の特色の一つでもあり、時間をかけて協力要請を続け、おおよそのめどが立った。 繰越申請を検討したが、学術振興会との相談の結果、繰越事由に該当しにくいとのことから、繰越申請は行わないこととし、未使用額は本年度調整金制度の利用を申請することとしている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、調書に記載された計画に従って・調査・研究を遂行する。調書においては、第2年目に、前年度の結果に基づき、水俣市及び不知火海沿岸地域での現地調査を実施する。設定されたテーマにしたがい、地元研究協力者との連携による各調査班の現地調査(被害患者・住民調査・地域団体・機関調査)を実施するとしていた。 タイムスケジュールとしては、三つのサブ研究班が連携しつつ、(1)研究会は定期的に開催し、現地調査も継続。各班の進捗状況を点検し、相互討論を進め、(2)策定された評価方法、基準に従って、水俣市及び芦北地区での社会的影響評価のための調査実施。7-9 月には、大学の夏季休業期間を利用し、各班合同で集中的な調査(合宿調査)を行う。1 月 水俣病事件研究会で各班の中間報告を計画している。 4月14日および16日に発生した熊本地震により、熊本学園大学が被災し、研究拠点としていた水俣学研究センターにおいても、研究用機材、文書・書籍類が散逸し、修復に時間が割かれ、現時点(5月末)においてもなお修復中である。また研究メンバーも被災している。本学における紙媒体を中心とした資料研究に影響が出ている。水俣現地においては被災は軽微であったので現地調査に支障はないものの、また、被災の結果、夏季休業期間が短縮されたため、研究計画全体としては変更はないものの、集中的な調査は8月下旬から9月中旬および春季休業期間とする。なお、前年度十分に実施できなかった水俣生活圏域における土壌の重金属汚染調査(サンプルの採取および分析)は、本年度実施する。 本年度は、水俣病公式確認60年にあたり、様々な行事・施策が予定されており、それの地域への影響もあり研究計画上の困難(地元関係団体の協力の有無など)が生じる可能性もあるが、現地に根差している本研究グループの強み(信頼関係の構築)を活かし、柔軟に対応可能である。
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