研究課題/領域番号 |
15H03448
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
池上 知子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (90191866)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会系心理学 / システム変革動機 / 格差是正 / 社会的不平等 / 差別的構造 / 社会的アイデンティティ / 集団脱同一視 / システム正当化理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、格差や不平等を生み出す社会システムの変革を促す要因と妨げる要因を、社会的アイデンティティ研究の新たな視座として最近関心を集めている脱同一視(所属集団からの心理的切り離し)をめぐる議論と関連付けて明らかにすること、階層構造を形成している集団に所属する人たちが、既存の階層構造を変動しうるものと認知するかどうかが脱同一視と変革動機の関係を規定するという仮説を立て検証することである。そして、日本社会に依然として根強く残る学歴差別、社会の周縁や底辺に置かれているマイノリティへの差別、さらに現代の日本に広がりつつある経済格差を素材として取り上げ検討することを通して、日本社会の抱える不平等問題の解決の糸口を見出すことを目指している。 上記の目的を達成するための第一段階として、平成27年度は本研究の重要な概念である「システム可変性認知」(社会に不平等で差別的構造を生み出す既存のシステムの変容可能性をどの程度に認知しているか)を測定するための項目について予備的検討を行い、システム変革動機を実験的に喚起するためのシナリオの題材の選定に必要な情報を収集した。 また、集団脱同一視並びに集団非同一視を測定するための既存の尺度項目を再検討するとともに新たな項目の収集を行った。なお、脱同一視の項目収集にあたっては、ドイツの共同研究者の協力を得て、比較文化的な視点から概念レベルの問題にも踏み込み、文化によって脱同一視の様相が異なることを明らかにした。 さらに、社会システム変革動機を促進ないし阻害する要因について、既存のWEB調査のデータの再分析、あらたに実施したWEB調査のデータの分析を通し、学歴社会の変容可能性を予期している者ほど、相補的世界観による既存の差別的構造の正当化が起こりにくいといったように、いくつか有益な予備的知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度である平成27年度には、上記の通り、システム変容可能性の認知を測定する項目、並びにシステム変容動機を実験的に喚起するシナリオに使用する題材の選定に必要な情報を得ることはできたが、本調査のための尺度構成には至っていない。また、集団脱同一視と集団非同一視の既存の尺度を使用した関連研究の結果を検討したところ、脱同一視尺度は概ね高い信頼性と妥当性を確認できたが、非同一視尺度の信頼性が低く再考する必要性が窺われた。加えて、脱同一視の概念について比較文化的検討を行ったところ、個人主義文化圏と集団主義文化圏では脱同一視の生起機序や帰結が異なることが見出され、あらためて尺度構成について吟味する必要が生じている。こうした状況から、当初計画していた脱同一視の潜在的指標の開発のための準備に着手することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、上記の遅れを取り戻すため、平成28年度は、本調査においてシステム可変性認知を測定するための項目を構成、選定するとともに、システム変革動機を喚起するための実験操作に使用するシナリオの作成に取り掛かり、これらの妥当性と信頼性を確認する。 以上の準備作業を経た上で、研究Aとして、大学生並びに社会人を対象に質問紙調査(WEB調査を含む)を実施し、顕在的脱同一視尺度、システム可変性尺度への回答を求め、社会階層の下位に位置し不利な立場に置かれている集団への評価やそれらの集団に対する救済策(格差是正策)に関する賛否を問う。また、研究Bとして、大学生並びに社会人を対象にシナリオ実験(WEB実験を含む)を実施し、顕在的脱同一視尺度への回答を求めた上で、シナリオを用いてシステム可変性認知を操作し、社会階層の下位に位置し不利な立場に置かれている集団への評価や下位の集団への救済策(格差是正策)に対する賛否を問う。なお、予算に余裕があれば、これらについては、国際比較調査を実施することも検討中である。 潜在的脱同一視の測定ツールの開発に向けた作業に平成28年度内に着手したいと考えているが、当初念頭にあった潜在連合テスト(GNATを含む)だけでなく、ドットプローブ課題やアイトラッキング課題等、潜在的注意の測定が可能なツールの利用も視野に入れて研究計画を立てる方針である。
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