本研究の目的は、不平等な構造を持つ社会に生きる人びとのシステム変革動機の発動過程を規定する要因を解明することにある。 平成30年度は、平成28年度に日本と米国で実施し、平成29年度にドイツと韓国においても実施した、社会人を対象とするWEB調査をフランスでも行い、知見の通文化性を検討した。その結果、日本、米国、ドイツで認められた「社会的不平等が低減しつつあるという現状認識を持つ者ほど、社会変革の実現可能性を強く信じ、社会システム変革に向けて動機付けが高まりやすく、結果、弱者救済につながる社会政策を支持する度合いが強まるという一連の心的過程」をフランスにおいても確認することができた。したがって、唯一韓国のみで変革の可能性への自信が変革動機に結び付きにくい傾向にあることが示唆された。ただし、総じてモデルの適合度が芳しくなく、想定外の経路を含んだモデルの検討の必要性が示唆された点は、フランスも例外ではなかった。 さらに、平成30年度は集団脱同一視が、上述のシステム変革動機の発動過程にどのような影響を及ぼしているかを実験的手法により検討した。その際、集団脱同一視の指標として、従前の顕在指標だけでなく、平成29年度に開発した潜在指標も使用している。集団脱同一視は、認知的側面である「所属集団と自己の切り離し」と、感情的側面である「所属集団への不満」の2側面から構成されているが、本研究では、それぞれを顕在・潜在の両レベルで測定し、各々の影響を検討した。その結果、潜在レベルにおいて自己を所属集団から切り離そうとする傾向が強い者ほど、変革動機が格差是正策支持に結び付きやすいことが見出された。また、格差固定より格差解消を予見させる事例に接触する方が、格差是正策への賛意が高まることが確認された。しかし、前者より後者の方が変革可能性知覚が促され、変革動機が高まるという予測は支持されなかった。
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