空間的統計量の知覚メカニズムに関する実験と分析を進める過程で,テクスチャ刺激の平均方位の判断が,観察時間が長くなるほど難しくなるという感覚処理の基本法則に反する現象を発見したため,詳細な実験的検討を加えた.その結果,この現象は500 ms以下の比較的短時間に提示される刺激についてのみ生じ,かつ観察者により大きく異なる不安定なものであることが判明した.一方で,500 ms以上のレンジでは観察時間に比例した成績向上が5 secを超える極めて長い時間にわたり持続することがわかった.これは,いわゆる初期視覚系の時間統合のレンジを明らかに超えており,時空間的統計量の推定において非常に長い時間にわたり情報を統合するシステムが関与する可能性を示唆している. 時間統計量の推定に関するこれまでの研究から,数字を刺激として用いた場合は,他の視覚特徴を用いた場合と大きく異なり,意思決定直前の情報を重視するという新近効果が認められず,観察者は提示された全ての時間の情報を等しく用いることが明らかになった.これは,数字のように言語化しやすい情報の平均の判断には単純な視覚特徴の平均の判断とは異なる処理過程が関与することを示唆している.この成果をいくつかの統制実験の結果とともにまとめ国際会議で発表した.その後,いわゆる視覚的な「数覚」の根拠の一つとして注目されているドット列の時間平均の推定においても同様に親近効果が欠如しているのかという問題を検討した.
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