(1) 時間統計量の推定におけるダイナミクスについて,数字の時間平均の推定(前年度)と同様に,ドット数の時間平均の推定においても親近効果が得られないことを確認し,「数」の時間統計量の推定には他の視覚特徴の時間平均の推定とは異なる機構が関与する可能性を見出した.これらの知見を原著論文として国際誌に投稿した.(2) 時間的に変動する視覚刺激の未来に関する予期的意思決定を解析し,過去の時間平均の推定と類似して,意思決定直前の情報とくに変動の反転を重視することを発見した.この知見は国内学会で発表し,次年度の国際会議に採択された.(3) テクスチャ状の視覚刺激の高次の空間統計量の知覚において生じる新たな残効錯視を発見し,国内学会で発表し次年度の国際会議に採択された. 最後に,上記の知見を含めた本研究における多くの実験結果を総合的な見地から考察した.その結果,(4) 方位,運動,顔などの視覚特徴の時間統計量の推定は,入力情報あるいは決定変数の時間変化(微分)の情報を線形加算するというシンプルな数理モデルにより統一的に説明できることを見出した.(5) 同様のモデルにより,未来に関する展望的意思決定も統一的に説明できることも見出した.これらにより,人間の脳は,複雑な変動をする現実世界の感覚データの過去のトレンドおよび未来の状態を「変化情報の統合」という極めて単純な情報処理に基づき推定することを明らかにした.これらの理論を,国際会議で発表するとともに,過去・未来それぞれについて原著論文にまとめた.
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