研究課題/領域番号 |
15H03463
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
下野 孝一 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (70202116)
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研究分担者 |
氏家 弘裕 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (40262315)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 3次元知覚 / 背景面 / 方向 / 数量 / 奥行き |
研究実績の概要 |
数量知覚については、3次元数量過大推定現象の特性を調べ、①推定現象は3次元刺激要素が提示された面積に依存すること、②推定現象は3次元刺激の構造には依存しないことを見出した。①と②は日本視覚学会で発表した。また①は2017年度のVSSにて発表予定(abstract採択済み)であり、②は「21世紀科学と人間シンポジウム誌」に投稿している。
視方向については方向同化現象の特性について調べ、①両眼相対視方向は、背景面(ランダムドットステレオグラム)に提示した両眼刺激(線分)の提示時間と背景面の傾きに依存すること、②単眼相対視方向は、背景面の傾きに依存することを示した。①の結果は知覚コロキウムで、②の結果は、九州心理学会で発表した。
奥行き知覚については、①奥行き減少現象に関する計算論モデルの検討、②写真などに描かれた2次元画像の奥行き感を増加させる枠効果に関する実験を行った。奥行き減少現象に関するAidaら(2015)の相互相関モデル(低次レベルの視覚特性を反映している)では、現象を再現できないので、減少現象は高次レベルで生じていると考えられている。しかしながら、Harris (2014)は類似の奥行き減少現象を相互相関モデルで説明できると主張した。われわれは、HarrisのモデルをAidaらのデータに当てはめ、相互相関モデルで説明できるかどうかの検討を行っている。われわれは今のところ、Harrisがモデルの当てはめに成功したのは、視覚系の特性を無視したパラメーターの設定にある、と考えている。②の枠効果は、絵画や写真に描かれた画像の前、あるいは後ろに窓枠を置いた場合、数秒経つと画像の奥行き感が増すという効果である。この現象は当該刺激の周囲、あるいは背景に、その刺激とは別の刺激を提示したとき、当該刺激の知覚が影響を受けるという考えから始めたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
数量知覚と奥行き知覚の研究は順調に進んでいるが、視方向に関する研究は少し遅れている。本年度は数量過大推定現象の研究に多くの時間を振り分け成果を得た。上述したように、刺激要素を提示する面積が3次元数量過大推定現象に影響したが、要素数が相対的に少ない(50個)の時には、その影響はなかった。また従来のモデル(背景面モデル)によれば、過大推定現象は、3次元刺激が背景面をもって知覚されるときにのみ現れると予測されていたが、背景面の知覚は現象には影響しなかった。われわれは現在、この結果を説明するのに、負荷仮説を考えている。 視方向研究の遅れは、両眼視方向に関する論文に関して、学会誌のエディターに追加実験の必要性を指摘されたことである。現在追加実験を行っているが、今のところわれわれの仮説と矛盾しない結果が得られている。単眼視方向の実験はほぼ終わっているが、両眼視方向の論文作成に時間を取られ、また論文の作成には至っていない。 奥行き知覚研究のうち、奥行き減少現象に関してはシミューレーション実験が終わり、論文の作成に入っている。「映像情報メディア学会誌」に投稿予定である。枠効果に関しては論文作成がほぼ終わり、来年度の前半には「Attention, Perception & Psychophysics」に投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果を受けて、次年度以降それぞれのトピック(視方向、数量知覚、奥行き知覚)に関して以下のような研究を行う予定である。 数量知覚に関する予定は、負荷仮説の予測を調べることである。負荷仮説は、3次元刺激の数量過大推定は、数量推定処理に加え両眼視差処理が同時に行われていると仮定している。また、数量推定に必要な処理時間と推定数に正の相関がある(要素の数が多いと処理に時間がかかる)と仮定している。もし、両眼視差処理という視覚系への負荷が数量推定処理時間をより遅くする方向に働くと仮定すると、①3次元刺激の場合に過大推定現象が生じ,③その現象は3次元刺激の形状には依存しない,という事実を説明できる。もしこの考えが正しいなら、両眼視差をもった3次元刺激ではなくても、数量推定処理時間に影響を与えるような刺激であれば、数量過大推定現象が起こるはずである。今後はこの予測を追及していく。 視方向に関する今後の予定は、①両眼刺激と単眼刺激に関する実験結果を論文としてまとめること、②方向同化現象が当該刺激の絶対的視方向の変化に起因するかどうかについて調べることである。さらにこれらの研究結果を踏まえ、視方向原理の歴史的研究も行いたいと考えている。 奥行き知覚に関する予定は、①シミューレーション実験に関する論文を完成させること、②枠効果をもたらしやすい絵画的手がかりを実験的に探ることである。本研究プロジェクトでは写真を使って実験しているが、写真に含まれるどの絵画的手がかりが奥行きの促進効果を生んでいるのかについては不明である。われわれは、このことを明らかにすることで、絵画的手がかりと見かけの奥行き感の関係をより詳細に理解できると考えている。
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