研究課題/領域番号 |
15H03483
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 雅之 東京大学, 大学総合教育研究センター, 教授 (90162023)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 奨学金 / 授業料 / 学費 / 情報ギャップ / 日本学生支援機構 / 所得連動型ローン / 中途退学 / HECS |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、広く学生支援と情報ギャップと教育費負担に関する国内外の現状とりわけ、所得連動型学資ローンと情報ギャップについて、各国および日本の先行研究や資料を収集、整理し、検討した。2017年度から導入される日本学生支援機構第1種奨学金の新所得連動型奨学金返還制度は、従来の定額返還型に比べ、格段に複雑性を増している上に、従来の定額型と新所得連動型の選択制になるため、高校・大学関係者や高校生・大学生・その保護者等に周知がきわめて重要になる。しかし、こうした奨学金や学資ローンについて、十分な情報を持たないために、学生への経済的支援が効果をあげないことは、アメリカ・イギリス・中国などで先行研究がなされており、それらを中心に、新制度の設計に資する知見を得るための検討をした。また、その結果、日本でも高等教育機関への進学以前に生徒や保護者に対するガイダンスや学生相談などを早急に充実させる必要性が示された。 また、2017年度に創設される給付型奨学金の受給対象者は、とくに厳しい状況にある家庭の子どもが想定されている。このため、平成28年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業「家庭の経済状況・社会状況に関する実態把握・分析及び学生等への経済的支援の在り方に関する調査研究」と連携して、ハローワーク、高校、関連NPOなどに訪問調査を行い、これに基づき高卒者保護者調査を実施し、情報ギャップと教育費負担の実態の把握に努めた。 とくに、高校訪問調査から、生徒への学生支援のための情報提供ができにくいことなどが明らかになった。これらの知見に基づき、全国高校調査を実施した。全国国公私立高校5,123校から半数を無作為抽出し、1,245校から回答を得た(回収率57.6%)。回答は、「奨学金の担当者あるいは奨学金に最も詳しくご存じの方」に依頼した。このデータの入力、集計作業を行い、分析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学生への経済的支援や情報ギャップに関する先行研究や大学改革動向については、内外の資料を収集分析することができた。計画していた海外実地調査については、本年度は他の事業及び連携研究者の協力によって、イギリス・フランス・中国・韓国について、実施した調査の結果を基に検討を進めた。 また、既存調査統計の再分析に関しては、日本学生支援機構・国立教育政策研究所「学生生活調査」や平成27年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業「経済的理由による学生等の中途退学の状況に関する実態把握・分析等及び学生等に対する経済的支援の在り方に関する調査研究」による全国大学アンケート調査や大学訪問調査などのデータ及び平成28年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業「家庭の経済状況・社会状況に関する実態把握・分析及び学生等への経済的支援の在り方に関する調査研究」のデータを分析した。こうした調査データの分析から、情報ギャップに対する高校や大学さらに政策の対応が不十分であり、情報提供の体制の構築が急務であることが明らかにされた。とくに、保護者の離死別・リストラなどの家計急変に対して支援が不十分であり、早急な対応が求められる。 教育費の負担については、既存資料および高卒者保護者調査データを用いて、現在の家庭の負担状況について、所得階層別の推計を行った。低所得層ほど、ローンの返済が不安のために奨学金を申請しないことや情報不足であることが明らかにされた。また、機関補助と個人補助の現在の公的負担の規模を推計するとともに、この問題を今後検証する基本的な枠組みを構築した。また、これらの調査の結果に基づき、奨学金の受給状況や奨学金の認知度など情報ギャップの現状について、日本高等教育学会等で報告した。 これらの作業により、基礎的な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、これまでの学生への経済的支援や情報ギャップに関する内外の先行研究の分析と,予備的な作業により、高等学校の情報提供の現状に関する基礎的知見を得ることができた。しかし、利用可能な既存調査の分析は、まだ十分とは言えないため、引き続き、連携研究者や研究協力者などと進めていく。また、全国高校調査についても、高校への訪問調査と並行して、自由回答のテクスト分析など、さらに詳細な分析を進める。他方、これまで利用が可能であった調査データやその他の既存の調査データの利用は次第に制約を受けるようになっている。このため、データの利用や公開の促進を関係機関に促していく。 教育費負担についても、これまでの4度の高卒者保護者調査や日本学生支援機構・国立教育政策研究所「学生生活調査」などの既存調査データを比較検討した分析から、運営費交付金や私学助成とりわけ授業料減免の補助などの機関補助と給付型奨学金、貸与奨学金などの個人補助のあり方について、これまでの推計やシミレーションをさらに進め、基本的な知見と政策的インプリケーションを得ることに努める。 海外実地調査については、科研費が申請より減額されたことに伴い、実施することが難しくなってきているため、次年度は実施をしない予定である。来年度は、研究代表者や連携研究者が既に訪問調査を実施した、オーストラリアやイギリスの学生支援に関する研究者が参加する所得連動型ローンに関する国際シンポジウムが10月に東京で開催される予定であるため、こうした場を利用して、情報収集や意見交換や論文の共同執筆など研究協力に努めることで、海外実地調査にある程度代えることが可能であると考えられる。このため、次年度は、引き続き研究会の開催や学会発表などを中心に、連携研究者の協力を求めていく。
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