研究課題/領域番号 |
15H03520
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
川崎 英也 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (50322285)
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研究分担者 |
宮治 裕史 北海道大学, 大学病院, 講師 (50372256)
大坂 一生 北陸先端科学技術大学院大学, ナノマテリアルテクノロジーセンター, 講師 (90550244)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | PDT / 金ナノクラスター / 光増感剤 / 歯周病 |
研究実績の概要 |
金ナノクラスターによる一重項酸素生成効率(Q効率)を決める因子として、金ナノクラスターのサイズ(金18量体、金25量体、金38量体)と保護剤(グルタチオン:SG、ホスファチジルコリン類似分子:MPC、アルブミン:BSA)の効果を検討した。Q効率は、クラスターサイズに依存し、金38量体<金18量体 < 金25量体の順にQ効率が高くなることがわかった。上記いずれの系も、マイクロ秒オーダーの蛍光寿命を示すことが観測されたことから、三重項励起状態の存在が示唆された。他方、同じ金25量体で保護剤の異なる金ナノクラスターでは、BSA-Au25 > Au25(SG)18という結果となった。Au25(SG)18では一重項酸素による金ナノクラスターの酸化分解が起こるのに対し、BSA-Au25では、一重項酸素による金ナノクラスターの酸化分解が起こっていないことが確認された。このBSA-Au25の高い安定性が、一重項酸素の持続的な生成と、Au25(MPC)18やAu25(SG)18に比べて高いQ効率に寄与していると考えられた。金ナノクラスターによる光殺菌治療の歯科への応用を目指して、歯科用LED光照射器により金クラスターを光照射した際の一重項酸素の発生と、口腔内細菌および生体細胞に与える影響について評価した。金ナノクラスターの添加と光照射はS.mutansに対してバイオフィルム形成を抑制、死菌を増加させた。増殖能、乳酸産生能は金ナノクラスター濃度依存的に有意に抑制された。生体細胞のSEM観察,LIVE/DEAD染色の結果から細胞の付着伸展には影響はなく、死細胞は認められなかった。CCK-8 Assayにおいて高濃度の金ナノクラスター添加と光照射を繰り返し行うと増殖が抑制された。これらの結果から、生体細胞よりも細菌の一重項酸素感受性が高いことが明らかになり,光殺菌治療の歯科応用の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は、一重項酸素発生に及ぼす金ナノクラスターサイズや保護剤の効果を明らかすること、及び金ナノクラスターの光増感作用による口内細菌の抗菌・殺菌能の検証であった。金ナノクラスターサイズや保護剤の効果を明らかにすることで一重項酸素発生効率の高い金ナノクラスターを見いだせたこと、金ナノクラスターの光増感作用が、口内細菌の抗菌・殺菌に有効であることを実証できたことから、研究計画通り、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
金ナノクラスターを包含した高分子複合体(金ナノクラスター含有型充填剤)の創製と光励起金ナノクラスターのPDT評価を行う。 <PDT利用に向けた金ナノクラスター含有型充填剤の創製>金ナノクラスター含有型充填剤として、高分子電解質と金ナノクラスターとのイオンコンプレックスを合成する。使用する高分子電解質は、アルブミン、リゾチーム、キチン・キトサンのカチオン系ポリマーである。高分子電解質との複合化は、金ナノクラスターの安定性向上だけでなく、歯周病菌を守るバイオフィルムへの透過性付与、歯周ポケットへの注入容易性などの効果が期待される。 <金ナノクラスター含有型充填剤のPDT評価>金ナノクラスター含有型充填剤を光増感剤として発生する一重項酸素発生効率を評価する。光照射は、波長450nm(青色LED、歯科用光照射機)、650 nm (赤色)と808nm(近赤外)のLEDレーザー(100mW)を用いて行う。光照射時間は、1分~10分の間とする。検討項目としては、(i)光照射+金ナノクラスター含有型充填剤、(ii)光照射のみ、(iii) 金ナノクラスター含有型充填剤のみ、(iv)対照群(光照射無し、金ナノクラスター含有型充填剤も無し)の4つである。 細胞・細菌増殖抑制効果の定量的指標として、一週間経過後の対照群(iv)の細胞(細菌)生存率を100 %とした時の、(i)~(iii)の生存率を求めることにより、金ナノクラスター含有型充填剤を光増感剤として発生した一重項酸素による細胞・細菌増殖抑制効果を調べる。
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