研究課題/領域番号 |
15H03532
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
沼田 宗典 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (70423564)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超分子科学 / マイクロフロー / 水素結合 / 時空間制御 / 非平衡開放系 / 準安定構造 / ナノファイバー |
研究実績の概要 |
本申請課題では、マイクロフロー空間での超分子形成に関してこれまでに我々が蓄積した技術を活用して、分子から材料への階層化と複雑化のプロセスを空間と時間の精密制御で実現化する世界初の実践的なナノ材料創出システムを開発していくことを目的としている。分子を自在にマニピュレートしながら目的の機能物質群を創出する新しい化学を実現することを最終目標としたい。 意義および重要性: 「分子間相互作用の制御」を基軸として「分子集合体のサイズ・形状制御」「階層性・複雑性の発現」など超分子化学的な視点でマイクロ流路を集積場として捉える研究は申請者らが独自に提唱・開拓してきたものであり、当グループの研究成果がそのさきがけとなっている。本システムを支える根本原理は分子レベルでの分子の振る舞いの同期性である。μ秒オーダーで完結する分子拡散によって、全ての分子が時空間的に同時に相互作用し始める、いわゆる「分子間相互作用の同期化現象」の可能性を世界て初めて確認した。これは、分子間相互作用の増強と長距離秩序の形成が可能となることを意味し、困難とされてきた長距離秩序を持つ分子集合体の形成と機能化に結びつく。同時に得られた組織構造の組み替え、分解・回収・再利用が高効率かつ迅速に起こり、無駄の無い持続的な物質消費が可能な次世代の物質社会の提案にも繋がっていくと期待される。 本年度の研究目的: 本年度はマイクロフロー空間に沿って数万単位の水素結合を同時にON/OFF制御することにより、ナノからマクロへの階層構造化の鍵となる精緻なマイクロ構造を創製し、その機能制御、構造化を1つの流れのなかで迅速に達成する基盤技術の確立を目指した。既に当研究室では分子量制御されたポリフィリン超分子ファイバーの創製に成功している。本年度は、この創製条件を踏襲し、ペリレン誘導体などの様々な機能性分子から水素結合性ポリマーを創製することを目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般にプロトン化と脱プロトン化の熱力学平衡下において、水素結合のみで長距離的な分子秩序を構築することは困難であり、実践的な超分子相互作用には成り得ない。こうした背景の中、我々は、これまでにマイクロフロー空間に沿ってpHを瞬間的に(μ秒で)切り替えることで、数万以上の水素結合を同時に駆動(同期化)させることにより、μmサイズの組織構造が一気に創製できることを見いだしている。こうした成果を土台として、本年度はまず、様々な分子骨格をターゲットに、水素結合のON/OFF制御を軸として、μmスケールで分子秩序が維持された精緻なマイクロ組織構造体群を創製し、本系の一般性を確立していくことを目指した。 本年度は水素結合部位としてアミド結合部位を持つ種々のペリレンビスイミド(PBI)誘導体を合成し、マイクロ流路内における会合挙動を検討した。特に本研究では、水素結合部位であるアミド基とπ共役骨格を長さの異なるアルキル鎖で連結した両親媒性のPBI誘導体を設計・合成した。スペーサー長(n)の変化によりπスタッキングと水素結合の相対的な強さを微調整することで、マイクロフロー内における自己組織化及び流出後の構造変化過程の制御を試みた。その結果、アルキルスペーサーの長さによって、得られる超分子構造体(ナノファイバー)の長さや安定性に差が見られることが明らかとなった。つまり、マイクロフロー空間内の分子環境を精密に制御することにより、超分子構造のサイズ(ファイバーの長さ)がある程度制御できる可能性が複数の分子系で改めて示された。一連の研究を通して、マイクロフロー空間内の環境を制御することによって、フロー条件と得られる水素結合性ポリマーの安定性の相関から、超分子ナノファイバー内で水素結合の制御について重要な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、今回の知見を踏まえ、さらに複雑な超分子構造の創製を目的として、複数の水素結合部位を平面あるいは4面体状に配置した分子を設計・合成し、水素結合ネットワークを2次元、3次元へと拡張することを目指す。また、マイクロフロー内の分子環境として、流速や溶媒組成、pHだけではなく、圧力や温度をパラメータとした水素結合の制御についても検討を行いさらに精密な制御系の確立を目指していく。 マイクロフロー内で水素結合などの分子間相互作用を正確に制御するためには、分子会合のダイナミクスをフロー距離(フロー時間)で理解する必要がある。マイクロフロー内部における分子の会合挙動を直接分光分析できる実験系の確立を目指し、分子間相互作用の時空間制御の可能性も検証して行く。
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