研究課題
4H-SiC結晶中の30度-Si部分転位の電子励起転位すべり効果を微視的に理解するため、1)TEM内でサブギャップ光照射により共鳴的に電子励起環境を形成して転位すべり運動を誘起し、2)種々の励起条件における転位すべりをその場TEM観察・解析し、3)電子励起状態でのキンクの形成・運動エネルギー、局在電子準位と励起効率を評価することが目的である。今年度は、透過電子顕微鏡に設置されたその場光学・電気測定装置を改造し、アルゴンイオンレーザー(エネルギー2.7~2.4eV)および波長可変レーザー(約3.5eV以下)からのバンドギャップエネルギー(約3.3eV)以下のサブギャップ光を顕微鏡観察下で照射できるようにした。また、試料内部への点欠陥導入を防ぐために120keVの電子線で観察するが、電子線による電子励起効果を分離するために広げた(収束していない)強度の弱い電子線ですべり運動を観察する必要があるため、高感度の透過電子顕微鏡用CCDカメラおよび解析用コンピュータシステムを設置した。光照射での電子励起転位すべり効果が確認されている高品質4H-SiC結晶(8度-off (0001)基板、膜厚17ミクロン、無添加)に室温におけるナノインデント法で意図的にフレッシュな(点欠陥の汚染がない)転位を導入し、透過電子顕微鏡観察可能な約500nm厚以下まで薄膜化した結果、2.7eVのレーザー光照射による電子励起転位すべり運動が確認された。しかし、運動の頻度や速度に再現性がなく、定量評価に至らなかった。
4: 遅れている
成果でも記したように、透過電子顕微鏡その場観察下において2.7eVのレーザー光照射による電子励起転位すべり運動が確認されたが、その運動の頻度や速度に再現性がない。その結果、当初の目標であった種々の励起条件における転位すべりのその場観察の定量解析ができず、電子励起状態でのキンクの形成・運動エネルギー、局在電子準位と励起効率の評価が実現できていない。イオン研磨や収束イオンビーム法で作成した試料は点欠陥の影響によりすべり効果の定量評価ができないため化学機械研磨法のみで欠陥フリーな薄膜TEM試料の作成を進めているが、機械研磨によるスクラッチ・ピットなどの表面欠陥が薄膜中の転位の運動に影響していると考えられる。
イオン研磨や収束イオンビーム法で作成した試料は点欠陥の影響によりすべり効果の定量評価ができないため、化学機械研磨法のみで欠陥フリーな薄膜TEM試料の作成を進めているが、化学機械研磨の前処理で用いる機械研磨により導入されたスクラッチ・ピットなどの表面欠陥が化学機械研磨後も残留し、それらと薄膜中の転位が相互作用するため本質的な転位運動が変調される、と考えられる。試料作成にかなりの時間がかかるが、前処理を減らして長時間の化学機械研磨で表面欠陥を除去し、欠陥の影響の無い本質的な電子励起転位すべり運動をその場観察する。種々の励起条件における転位を定量解析し、電子励起状態でのキンクの形成・運動エネルギー、局在電子準位と励起効率を評価する。それらの結果を踏まえて、任意濃度の不純物や空格子点など点欠陥と相互作用させた部分転位の励起効果を系統的に評価する。
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