研究課題/領域番号 |
15H03539
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
河合 武司 東京理科大学, 工学部, 教授 (10224718)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中空粒子 / ナノ加工 / UV照射 |
研究実績の概要 |
本研究は、高分子ナノ粒子に紫外線を照射すると中空化する現象において、望みの粒径・空孔径・組成を持つ中空ナノ粒子の迅速・簡便な作製法の確立と中空ナノ粒子の生成過程の解明を目的としている。本年度は、中空粒子作製に及ぼす紫外線の波長・照射強度などの影響について調べ、中空化に必要な最適条件について検討した。その結果、照射波長を248 nm、313 nm、365 nm、405 nm、436 nmと変えたところ、248 nmのUV光が最も有効であることが明らかとなった。これは、波長248 nmがポリスチレンの吸収帯と一致しているため、光化学反応が効率よく進行したためと思われる。さらに照射時間の影響について検討した結果、照射時間とともに空孔サイズは次第に大きくなり、表面まで貫通することもわかった。したがって、光分解反応は光照射初期に粒子中心部で始まり、それによって穴が形成し、その後空孔は徐々に大きくなり粒子表面まで達するものと思われる。 一方、空気および水の役割を明らかとするため、(1)アルゴン雰囲気下および酸素雰囲気下での実験、(2)ガラス基板系の実験および(3)ラジカル捕捉剤および過酸化水素水添加系での実験を実施した。その結果、空孔形成には酸素、水およびOHラジカルの存在が不可欠であることが解明できた。 また紫外線照射を空気側からではなく、水相側から照射した結果、両者で空孔位置が大きく異なることも見出した。この相違は空気と水の屈折率が影響していることが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(1) 光照射波長と照射時間の影響および最適条件を解明したこと、(2)空孔化プロセスにおける酸素、水およびOHラジカルの必要性を実証したこと、さらに(3)粒子の媒体の屈折率が空孔位置に影響することを明らかとしたことから、当初の予定以上の成果が達成できた。また、(3)の屈折率の影響を実証できたことは、空孔位置の精密加工法の大きなヒントとなることを示しており、大いに評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
中空化技術のいくつかの条件は明らかとしたが、本年度は、まだ明らかとなっていない粒子サイズの影響と中空粒子の生成過程の解明を行う。さらに、多孔粒子の作製についても挑戦する。 (1)粒子サイズの影響:PS粒子の中空化は粒径が200と500 nmで可能なことや、空孔は粒径200 nmでは中央部に、粒径500 nmでは紫外線照射面と反対側に生成することを確認しているが、詳細については明らかとなっていない。そこで、様々な大きさのPS粒子を用いて、粒径の適用範囲、最適照射条件や中空化位置の粒径依存性について検討し、中空化技術の基礎的な条件を明らかとする。これらの知見は、本中空化技術を粒子以外の曲率を持った高分子材料に応用する場合に重要な指針となる。さらに粒子サイズ変化の結果から中空化の深さ(厚み)限界を、空孔位置の粒径依存性の結果から中空化の精密制御の知見が得られることが期待できる。 (2)中空粒子の生成過程の解明:気水界面のPS粒子(粒径200 nm)の空孔は、空気側(屈折率n=1.0)からUV照射すると粒子中心部で生成すること、水側(屈折率n=1.3)から照射すると空気側の表面近傍で生成する傾向がある。また、ポリスチレンの屈折率は紫外領域では大きいため(ポリスチレンのフェニル基による吸収帯が250 nmにあるため)、近接場光の効果も排除できないが、粒子がマイクロレンズの役割を果たし、粒子表面で屈折した紫外線が中央に集まり、中央部からPSの光分解が優先的に進行して中空化すると予想しているが、空孔の深さ方向の形成位置、初期の形成過程や内部形状については解明できていない。そこで空孔の成長過程をTEMトモグラフ法などによって評価する。 (3)多孔粒子の作製:紫外線を斜めから照射した場合の空孔の形成過程の解明し、その知見を下に多孔粒子の合成に挑戦する。
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